どうも、コント作家のりきぞうです。
これまで、1000本ちかくコント作品をみてきました。
くわえて、100本ほど喜劇作品を読んできました。
なかでも、モリエールの喜劇は、おもしろかった。
同じように、読んでみようと思っている人も多いはず。
とはいえ、
・たくさんありすぎて、どれからみたらいいいのか分からない
・とくにおすすめはどれ?
─ こんな悩み&疑問をいだく人もかなぁと。
そこで、この記事では、モリエールの代表作を取りあげ、まとめていきます。
結論を先にいうと、つぎのとおり。
りきぞう
・トップ3は『スカパンの悪だくみ』 → 『町人貴族』 → 『ジョルジュ・ダンダン』の順
・〝考えさせる系〟の喜劇なら、『ドン・ジュアン』がおすすめ
といったかんじ。
以下、カンタンに概要&感想をあげながら、すべての作品をみていきます。
※ 出版された年数順に並んでいます。
目次
『飛び医者』
制作年代は不明です。
モリエールが若いころ、地方巡業しているときに、つくった喜劇とされています。
喜劇とされていますが、一幕もので、長さでいえば、ヴォードヴィルやコントにちかいです。
セリフやプロットもあっさりしてて、とても読みやすい。
このあとモリエールの作品では、スガナレルというキャラがたびたび登場します。
『飛び医者』はそのプロトタイプにあたる作品。
その意味では、わりと画期となる喜劇といえます。
くわしいレビュー

『粗忽者(そこつ者)』
こちらも制作年代は不明。
モリエール初期の作品とされます。
この時期は、一幕ものが多いですが、本作は「5幕」から成り、けっこう長めです。
レリー&セリーの恋ばなですが、メインは、レリーのおっちょこちょい。
マスカリーユの「悪だくみ」にたいして、ひとの良いレリーが、よけいなふるまいをして、横やりをいれる。
ジャマばかりをくりかえすようすを、楽しむ内容です。
尺は長いですが、言葉づかいもカンタンで、さらっと読めてしまいます。
はなしもベタで、だれでも笑えるかなぁと。
くわしいレビュー

『才女気取り』
モリエール初期の作品です。
当時のフランスは、読者文化が広まりはじめていました。
それともない、教養をひけらかす女性も増えていました。
そんな状況を皮肉ったのが、本作です。
いつの時代も、知識をひけらかし、お上品にふるまう人はたくさんいます。
いまでいえば「意識高い系」ってやつです。
その意味では、普遍性のある作品ですね。
いっぽう「笑える」という点では、いまひとつ。
たんに「知識をひけらかす女性」にワナをかけるという内容なので、楽しいかんじはありません。
ほかの作品をみてから、手に取るのが、おすすめです。
くわしいレビュー

『スガナレル』
モリエール初期の作品です。
「一幕もの」のヴォードヴィル。
長さもほどほどで、さらっと読めます。
なかみはわりとベタな「カン違いばなし」。
けれど、スガナレルの悪態ぷりや、セリフまわしがおもしろく、読んでいて飽きません。
はなしのはじまりは、レリー&セリーの恋のやりとり。
けれど、メインのプロットは、スガナレル&妻の交錯劇となります。
ふたりがカン違い&思いこむことで、ストーリーがフクザツになり、おもしろさ増していきます。
さいしょに手にするには、おすすめの1作です。
くわしいレビュー

『亭主学校』
制作年代は、1661年頃とされています。
本作は、子どもの結婚ばなしがメイン。
じつは、当時の「後見人」の制度&慣習を知らないと、なかなかピンとこない作品です。
当時のフランスでは、幼いころ、親を失くした子どもにたいして、親族や知人が「後見人」となって育てていました。
さらに独身であれば結婚もできました。
この喜劇でも、イザベルの後見人であるスガナレルは、それまで育てあげた報いだとして、彼女を妻にしようと考えます。
いっぽうの兄アリストも、イザベルの姉レオノールの後見人だが、こちらは心のひろい性格で、弟のように、相手にたいして「妻になれ」と強要しない。
さらに、それまでの教育方針も「ゆるく」、スガナレルのように「きつく」ない。
ストーリーのテーマとして、寛容/厳格が対比され、前者をアリスト&レオノール、後者をスガナレル &イザベルが担っている。
このコントラストが軸となって、はなしがすすんでいきます。
おもしろいストーリー展開ながら、なかなか共感できない作品かなぁと思います。
くわしいレビュー

『女房学校』
モリエール初期〜中期ごろの作品です。
貞操/奔放をテーマした喜劇。
手練手管にたけ、男を手玉にとる女が、大きらいなアルノルフ。
そんな女にダマされるのを避けるため、あえてウブで、ナイーブな女と結婚しようとする。
どんなに「ぼんやりした」女でも、魅力的な男があらわれれば、コロッとなるが、それでも何とか食い止めようとする。
自分がアニュスの婚約者であることをかくしながら、オーラスにたいして、嫌がらせをはたらく。
くわえて、アニュスにたいしても、貞操をまもるようおさえつける。
しかしその企みはすべて裏目にでてしまう。
モリエール作品すべてにいえることだが、彼の喜劇では、ひとつの「思想」「モノ」にたいして、過剰に執着するキャラクターが登場する。
この人物がコアになり、ストーリーがすすんでいく。
今回は「貞操」「貞淑」を追いもとめる男が主人公。
「女のみさお」に駆られるアルノルフが笑いを生みだします。
このように、テーマもストーリーもわかりやすい作品。
さいしょに手にするには、おすすめの1作です。
くわしいレビュー

『ゴリ押し婚(強制結婚)』
初期から中期ごろの作品です。
モリエールではおなじみの人物「スガナレル」が主人公です。
金持ちのかれが、ドリメーヌ一家に手玉にとれる ─ これが、笑いの軸です。
ずるがしこドリメーヌもなかなか魅力的。
けれどそれ以上に、「礼儀」をやたら重んじる父親&兄のキャラクターが、ほんとおもしろい。
アルシダス ほかの人たちなら、騒ぎ立てもするでしょう、あなたに食ってかかるかもしれません。しかし、万事おだやかに事を運ぶのがわたくしどもの流儀です。で、作法どおりお伝えにまいりました、お差し支えなければわれら両人、首の斬り合いをするのがなによりと存じますが。
スガナレル 迷惑千万なごあいさつですな!
(p.66)
ふたりのヘンクツな性格をベースに、笑いをおこしていきます。
プロット&セリフまわしもわかりやすく、読みやすい。
こちらもおすすめの1作です。
くわしいレビュー

『タルチュフ』
モリエール中期の作品です。
宗教家「タルチュフ」と、かれの〝でたらめな信条〟に洗脳される、名家の主人「オルゴン」のおはなしです。
のべたとおり、モリエール劇では、ひとつの「思想」「モノ」にのめり込む人物が、たびたび登場します。
本作も、その一系列です。
彼の心酔ぶりが笑いの軸になっています。
こちらもストーリー展開がわかりやすく、セリフまわしもカンケツ。
おすすめの1作です。
くわしいレビュー

『ドン・ジュアン』
中期の作品です。
本作は、一般に「性格喜劇」と言われます。
そのため「ドン・ジュアン」のキャラクターが前面に出ている喜劇です。
ずるがしこく、「悪党」にふさわしい人物。
なかでも「偽善」についての考えは、注意をひきます。
ドン・ジュアン 頭をぴょっこりと下げ、信心ふがそうなため息をつき、目の玉をくりくりさせれば、あとはなにをしようと結構世間体がつくろえるんだ。この都合の好い隠れ家に逃げこんで、おれは身の安泰を計ろうと思うんだ(……)
(p.122)
悪徳のなかでも偽善がいちばん「おトク」だと言いはなち、卑劣な付き人のスガナレルもビックリさせます。
セリフの背景には、モリエールが前年に『タルチュフ』という「ペテン師」をあつかった喜劇を発表したものの、王国から上演禁止の命令をくだされたできごとがあります。
バックグラウンドを知ったうえで、本作を読むと、より楽しめると思います。
単純に、ひとつのはなしとしても、おもしろく、ついつい笑ってしまいます。
こちらもおすすめの1作です。
くわしいレビュー

『恋は医者(恋こそ名医)』
中期の作品です。
こちらも、おなじみの人物「スガナレル」が、はなしの軸になります。
三幕のみじかいシナリオ。
コンパクトで読みやすい。
ストーリーも、[むすめの結婚に反対する父 → 反発するむすめ → 策をほどこす女中]といったながれで、モリエールがオハコとするモチーフ。
いっぽう、オープニング、エンディング、幕間で、音楽の指示が具体的に書きこまれています。
なので、ストーリーやテーマで魅せるというより、演出メインで観客を楽しませるかんじがあります。
さらっと読みたい人には、おすすめです。
くわしいレビュー

『人間嫌い(ル・ミザントローブ)』
中期の作品で、彼の代表作と言われています。
極端に「誠実さ」「公正さ」をもとめる「アルセスト」 ─ 。
この特異な性格がストーリーを動かしていく。
たとえば「融通がきかし、友だちにも、恋人にも、お世辞のひとつでも言ってみたら?」という友人にたいして、こんなセリフを口にする。
アルセスト 愛情が深ければ深いほど、お世辞を言ってはならないんだ。真の愛情は、なにひとつ容赦しないところに、はっきりあらわれる。自分の意見に盲従し、なにかにつけて愚にもつかなぬおべんちゃらを言い、誤った言動をあおりたてるような恋人は、ぼくなら片っぱしから追い出してやるよ。
(p.188)
かれのヘンクツな性格が、笑いをおこしていきます。
とはいえ、モリエールの代表作と言われているが、そこまでおもしろい作品ではありません。
ひとつひとつのセリフが長く、会話のやりとりも回りくどいかんじです。
プロットの軸もあやふやで、ストーリーとしても、やや盛り上がりに欠けます。
哲学者「ルソー」は、この作品を高く評価していました。
けれど、それは「公正」「誠実」というテーマに注目したから。
エンタメとしてみれば、そこまでレベルは高くありません。
じしつ、興行としての成果もふるわなかったようで、モリエールが力を注いだわりには、評価も低かった。
ほかの作品をみたあとに、手にするのが良いと思います。
くわしいレビュー

『いやいやながら医者にされ』
中期の作品です。
こちらも、おなじみの人物「スガナレル」が、主人公。
かれが「医者」に変装し、ある家庭にワナをしかける ─ これがストーリーの軸になります。
また、アクション面でも笑いどころがたくさんあります。
セリフまわしもカンケツで、プロットの構成もシンプル。
こちらもおすすめの作品になります。
くわしいレビュー

『シチリア人(シシリー人)』
中期から後期にかけての作品です。
コンパクトな一幕劇。
主人 or 父親にしばれる恋の相手を、ずるがしこい作戦で奪いとる ─ これがストーリの軸になります。
おなじみの展開で、会話のやりとりも、かなり笑えます。
さらっと読めるので、おすすめです。
くわしいレビュー

『アンフィトリオン』
中期から後期にかけての作品です。
アンフィトリヨンとは、ギリシャ神話に登場するアムピトリュオーンのこと。
そののち、古代ローマの劇作家「プラウトゥス」が、彼を題材に喜劇をつくりました。
さらにそのシナリオをモリエールが「アンフィトリヨン」としてアレンジのが、本作です。
モリエールにしてはめずらしく、史劇&幻想劇です。
ざっくりいえば、勘違い劇です。
おなじ交錯劇でも、モリエールの場合は、キモチの「機微」みたいものを挿しこむことで、クスッとした笑いをもたらす。
このあたりが、モリエールならではのユーモアといえます。
全体としてみた場合、バランスがとれていて、おすすめです。
くわしいレビュー

『ジョルジュ・ダンダン』
中期から後期にかけての作品です。
モリエールは、若いころに『ル・バルブイエの嫉妬』を書いています。
本作は、それを発展・アレンジしたもの。
寝取られ夫(=コキュ)の「ジョルジョ・ダンダン」が主人公です。
妻の浮気をくい止めるため、さまざまな手をうつ ─ これがストーリーの軸になります。
それでも何とか妻の浮気をあばこうと、ドタバタするジョルジョ・ダンダン。
しかしどの作戦も、妻と付き人の「機転」によって、ウラメにでる。
このくりかえしが、笑いをもらします。
プロットの展開もすっきりしていて、セリフまわしもカンケツ。
おすすめの1作といえます。
くわしいレビュー

『守銭奴』
中期から後期の作品です。
ストーリーの軸は、クレアントとマリアーヌの結婚。
いっぽう、笑いの軸は、父「アルパゴン」のキャラクター。
かれの〝ドケチっぶり〟が、笑いのカギとなります。
のべたとおり、モリエール劇では、ひとつの「思想」「モノ」に執着するキャラが、たびたび登場します。
本作は、その一系列といえます。
全体として、プロットの展開&セリフまわしも、おもしろく、完成度は高いです。
くわしいレビュー

『町人貴族』
中期から後期の作品です。
5幕の喜劇。
そこそこ長さはあるが、会話のテンポがよく、さらっと読めます。
モリエール作品では、ひとつのモノや考えを、過剰に信じこむ人物が登場し、まわりとゴタゴタをおこすパターンがよくみられます。
『女房学校』では「妻の貞操」、『守銭奴』では「お金」などなど。
今回は、「貴族」に執着する人物が主人公。
貴族にあこがれる「ジュールダン氏」。
妻やむすめたちの忠告をきかず、くだらない名誉のために、パカパカお金をつかいまくる ─ これがストーリーの軸になります。
ボリュームがあるものの、セリフのやりとりがおもしろく、ついつい読んでしまいます。
全体として、完成度はかなり高めです。
くわしいレビュー

『スカパンの悪だくみ』
後期の作品です。
本作は、速書きでつくられたと言われています。
けれど個人的mには、かれのすべての喜劇のなかで「ベスト3」に入ると思います。
父親に結婚を反対される「オクターヴ」。
どうにか、恋人「イアサント」と結婚するため、付き人「スカパン」に、父親をダマすための画策してもらう ─ これがストーリーの軸になります。
イチバンの笑いのどころは、ふたりの父アルガント & ジェロントをダマす場面。
とくに、むすこがトルコ人に囚われ、身代金を要求されるジェロントが、金を出し渋るシーンは、かなりおもしろい。
ジェロント 人でなしのトルコ人め! (……)
スカパン 旦那さま、ご自分で早く考えてくださいまし、あの大事な大事なお坊ちゃまを囚われの身から救い出す方法を。
ジェロント なんだってまた軍艦なんぞに乗り込んだんだ?
スカパン こんなことにはなろうとは思いも寄らなかったからで
ジェロント おい、スカパン、大急ぎでそのトルコ人のところへ引っ返し、こう言ってやるがよい、警察の追手をかけるぞ、とな。
スカパン 警察を海のまっただなかに! 冗談じゃありませんぜ。
ジェロント なんだってまた軍艦なんぞに乗り込んだんだ?
スカパン 運の悪いときは誰でも仕方がないもので。
ジェロント なスカパン、ここでひとつ忠実な召使として役目を果たしてもらいたい。
スカパン なんでございますか?
ジェロント トルコ人のところへ引っ返して、こう言うんだ、わしに倅を返してほしい、お望みの金が集まるまで、おまえが身代わりを勤めるから、とな。
スカパン もし、旦那さま、気をつけてものをおっしゃってください。トルコ人だって間抜けじゃなし、若旦那の身代わりに、スッピンカンのわたしを受け取るはずはありません。ジェロント なんだってまた軍艦なんぞに乗り込んだんだ?
(p.74-75)
くりかえし「なんだってまた軍艦なんぞに乗り込んだんだ?」と述べることで、反復の笑いをもたらす。
キモチの面でも、現実を受けとめられないようすがにじみ出ている。その混乱ぶりがホントにおかしい。
本人にとっては不幸だが、ハタからみると笑える ─ こういうパターンの喜劇を書けたら、ほんとに満足だろうと思える作品です。
もちろん読むうえでも、おもしろいです。
個人的には、イチバンおすすめです。
くわしいレビュー

『女学者(学者きどりの女たち)』
後期の作品です。
モリエールの喜劇では、ひとつのモノや考えにこだわりすぎるあまり、ジョーシキとかけ離れ、まわりとイザコザをおこすキャラクターが登場する。
今回は、「学問」「知性」にのめりこむ女たち、「アルマンド」&「フィラマント」が主人公です。
モチーフとしては、初期作品『才女気取り』に、似ています。
いっぽう、どのシーンでも、こんなかんじでドタバタや言い合いがくりかえさせる。
ほかにも、妻に言いなりの夫クリザールの葛藤だったり、かげでアンリエット & クリタンドルを応援する、弟のアリストだったり、魅力的なキャラクターがたくさん登場する。
読んでいてあきないシナリオです。
さすが円熟期の作品だけあって、観てる人を楽しませる工夫がよくみられます。
こちらもおすすめです。
くわしいレビュー

『病は気から』
後期のもので、生前最後の作品です。
モリエール劇では、ひとつのモノ・考えに心酔する人物が登場する。
今回は、自分が病気だと信じこむ男が主人公。
かれの思いこみが、まわりの人たちとギャップを生み、そのズレが笑いをおこしていく。
体調に気をつかい、健康法もこまかい部分まで気にする。
アルガン 〔……〕ピュルゴン先生は、毎朝、部屋のなかで、12歩あるいて、12歩もどれ、とおっしゃったが、縦だか横だか、それをきくのを忘れてしまったわい。
(p.51)
会話するときも、病気にひっかけた話題を口にする。相手に怒りをぶつける場合もこんなかんじ。
アルガン 薬をあと12錠のみ、浣腸を12回しなければ、腹の虫がおさまるもんじゃない。
(p.38)
ひとつの考えにおぼれ、まともな判断ができなくなる。
かれの過度な〝心配性〟が、笑いをもたらします。
プロット&セリフとともに、バランスのとれた内容です。
くわしいレビュー

まとめ
まとめると、
りきぞう
・トップ3は『スカパンの悪だくみ』 → 『町人貴族』 → 『ジョルジュ・ダンダン』の順
・〝考えさせる系〟の喜劇なら、『ドン・ジュアン』がおすすめ
モリエールの喜劇作品を読むうえで、参考にしてみてください。
ではまた。
よきコントライフを〜。