どうも、コント作家のりきぞうです。
取りあげるのは、モリエール『タルチュフ』。
中期の作品です。
以下、ストーリーの大枠をみたあと、笑いのポイントをあげていきます。
ちなみに、鈴木力衛訳で読みました。
以下、引用のページ番号は、うえの文献によります。
また2000年には、べつの翻訳も出ています。
わりと読みやすいです。
よければチェックしてみてください。
目次
ストーリーの大まかな流れ
人物
オルゴン……主人
タルチュフ ……宗教家 & ペテン師
オルゴンの家族たち
場所
パリ、オルゴン家
あらすじ
名家の主人であるオルゴン。
宗教家タルチュフに心酔し、財産をふくめ、あらゆるものごとをこの男にゆだねている。
「タルチュフ = ペテン師」と見ぬく家族は、目をさますよう説得するが、オルゴンは聞く耳をもたない。
妻に言いよることにも気づかず、さらにはヴァレールと婚約中のむすめマリアーヌまで、タルチュフに差しだそうとする。
見かねた家族は、タルチュフのペテンをあきらかにするための策をねる。
妻エルミールから、タルチュフを誘いだし、ふたりのやり取りを、テーブルの下にかくれるオルゴンにこっそり聞いてもらうことに。
おもわくどおり、タルチュフは妻にアプローチ。
そのおしゃべりを耳にしたオルゴンは、ようやく我にかえる。タルチュフに罵声をあびせ、家から追いだす。
しかしすでに財産権を譲りうけていたタルチュフ。法律家のロワイヤル氏を送りこみ、ぎゃくに家族全員を追いだそうとするが……。

ひとこと
タルチュフにハマりこむオルゴン。
彼の心酔ぶりが笑いの軸になっています。
エセ宗教家として、なにかと神を持ちだして、都合のいいリクツをのべ、オルゴンをあやつる。
クレアント 〔……〕あなたの言いわけはこじつけばかりですよ。なにも神の思し召しを引き合いに出すことはないでしょう?
(p.91)
こんなふうに、親せきのクレアントがタルチュフを非難しても、主人のオルゴンが手のひらにのせられている以上、事態はより悪いほうへながれていく。
オルゴンが信じれば信じるほど、まわりの者たちが不幸になる。
この悪循環が笑いをつくりだしています。
またタルチュフに対比するかたちで、女中のドリーヌが置かれる。
彼女は、皮肉をくりかえし述べて、オルゴンの滑稽さを指摘する。
ドリーヌ 美徳が隣人愛となって実を結んだんですわ。あのかたは、財産が往々にして人間を堕落させるものだってことをご存じだもんで、まじりっけのない慈悲心から、だんなさまの救いの邪魔になるようなものは、ひとつ残らず取りのけてくださろうというんです。
オルゴン 黙れったら、口のへらないやつめ。
(p.131)
こんなふうに、タルチュフのペテンに気づいたあとでも、主人にたいして、非難する。
タルチュフの立場とコントラストになっていて、ストーリー全体をとおして、カギとなるキャラクター。
オルゴンの右往左往ぶりがプロットの軸になっていると考えれば、タルチュフが事実をかくし、ドリーヌがあばく役まわりだとわかります。
たんに皮肉屋のばあさんというよりも、真実を解きあかす重要な人物。
シェイクスピアでいえば、リア王の「道化」がコレにあたりますね。
彼女の演じ方しだいで、この劇のよしあしが決まりそうです。
オルゴン 〔……〕この家は、もう正式に譲り受けた、と言って、このわしを追い出し、自分がそのむかし拾いあげてもらったみじめな境遇の人に、わしを突き落とそうとしているです。
ドリーヌ そうかい、そうかい。
(p.120)
「そうかい、そうかい」というセリフは、タルチュフに心酔し、まわりの意見を受け流していたときの口ぐせ。
タルチュフにダマされ、不幸の身をなげく、オルゴンにたいして、ドリーヌはここぞとばかりに、この口ぐせをおかえしする。
うまいなぁ。
笑いのポイント
笑いのポイントをみていきます。
コントや喜劇で大事なのは、キャラクターとプロット。
この作品ではプロットに注目してみます。
コントのプロットはとてもシンプル。
[設定 → 展開 → オチ]がキホンのながれ。
なかでも「展開」が、作品の良し悪しを決めるんだけど、これにも「型」があります。
パターンは「反転」「逆転」「交錯」の3つです。
ストーリーを整理して、パターンをあてはめてみてると、構図は「交錯」だとわかります。
「交錯」では、1人の人物が、真相を隠したり、ワナをしかける。それにより、カン違いする人物が、スジ違いのセリフを吐いたり、行動に出たりする。
そのようすが笑いを引き起こす。
この作品でも、ペテン師のタルチュフが宗教家をよそおい、オルゴンを信じこませ、手のひらでころがす。
それによりオルゴンが、むすめを結婚相手として差しだしたり、財産を受けわたし、度のすぎた行動に出る。
この展開が笑いをおこしていきます。
図にするとこんな感じ。
・オルゴン、ペテン師タルチュフを信じこむ
・妻へのアプローチも気づかず、むすめも差しだす
・財産を奪われ、追いつめられる
・国王の指示により、タルチュフがつかまる
宗教家 ≠ タルチュフ=サギ師
オチはタルチュフが国王の命令により逮捕されるというもの。
あっさりしていますね。
けれど「交錯」の構図をとっている場合、ラストはあまり重要ではありません。
それまでのプロセスが大切です。
本作でいえば、オルゴンがダマされるようす、ダマされたとわかったあとのアタフタぶりをどう描くがポイントです。
ちなみに、なぜ、とつぜん国王が出てきて、事件を解決するのか。
それは、この喜劇自体が、じっさいの国王のために披露されたからです。
解説によれば、ルイ14世のためにモリエールがつくりました。
なので、やや国王を礼賛しすぎるきらいがある。
とはいえ、「宗教家 = ペテン師」とするストーリーにたいして、教会関係者からの非難をおそれ、ルイ14世は、公演の禁止を命じたらしい。
政治がからむと、やっぱり大変です。
まとめ
こんなふうに、プロットに注目してみていくと、よりいっそうコントを楽しめます。自分でつくるときにも役立ちます。
ほかの作品でも、こんな視点に立って作品で観ています。ちがう記事ものぞいてみてください。
ではまた。
よきコントライフを〜。



