どうも、りきぞうです。
これまで、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。
働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。
大学院ではキャリア論と社会保障論を研究していましたが、卒業したあとも関連した書籍を月10冊ペースで読んでいます。
さいきん、波頭亮『 AI とBIはいかに人間を変えるのか』を手に取りました。
研究していた内容とマッチしていたので、気になり読んでみました。
内容は、AI と仕事・労働のカンケーです。
いまホットになっている話題で、これから働くひとにとっても大いに関わるテーマですね。
著者な有名なコンサルタントの方なので、書かれた方が論理的で、コンパクトにまとまっています。
「AI + ロボ」による進歩と、仕事&労働による変化を知りたい人にはおすすめの1冊です。
目次
波頭亮『 AI とBIはいかに人間を変えるのか』の概要
大まかな目次はこんなかんじ。
第Ⅱ章 BI ……ベーシックインカム(BI)の仕組みと効力
第Ⅲ章 AI ……AI + BI の社会で人間はどう生きるか
第Ⅰ章で、AI の概要と、経済にとってのメリット / デメリットについて。
第Ⅱ章で、BI の概要と、メリット&制度的な問題について。
第Ⅲ章で、AI + BI が普及したときの社会のあり方と、個人の生き方について。
章立てからもわかりますが、めちゃくちゃロジカルにまとまっています。
波頭亮『 AI とBIはいかに人間を変えるのか』で気になったトコ
以下、引用をのせつつ、気づいたことをコメントきていきます。
人間の知能とくらべたときの AI の弱点
人間の知的能力の中で AI が苦手とするものは意外に多い。それは例えば、
・少ない情報/データから推論する
・言葉の背景にある意味・意図を解釈する(本音と建て前の判断)
・因果関係を読み取る
・(非合理性を含む)人が関わる事象に対して解を出す
・トレードオフが生じる中で意思決定する
・目的/目標設定を行う
・ゼロからイチを生み出す といったことである。
これらの多くの項目に共通しているのは、「解が一つに定まらない」もしくは「そもそも正解が無い」ものに対して自分ならではの見解を示したり、不確実性が高い状況の中で不完全な情報を基に背景を推論したり未来を予測するというような、主観や曖昧さを扱う類いのタスクであるという点である(732)
AI のスゴさについては、新聞や経済誌などでさんざん取りあげられていますね。
大量のデータを素早く処理して、ある問題にたいして最適な解を導きだす──これがイチバンのウリです。
著者は強みをあげる一方で、AI の弱みもあげます。
うなづけるのは、モノでもサービスでも「ゼロイチ」から生み出せないという点ですね。
原理上、AI は養分となる「データ」がないと、なにも作れないし、生み出せません。
そのデータの種類も、人が与えるので、けっきょくは人間の主観に左右されます。
アイデアを生み出し、カタチにするのは、AI は不得意(というか不可能)で、これからも人間が担うことになります。
また人のキモチを読みとるのも苦手です。顔色と発言から感情の浮き沈みをすこしは理解できるかもですが、完全に察するにはほど遠い。
とくに「本音と建前」を理解するのは、至難の業みたいですね。
人間は建て前の裏に隠れた本音を声色・表情といった非言語的情報から読み取った上で適切に解釈しようとするが、 AI はそのような非明示的情報と明示的情報との統合作業を苦手とする。実際の人間社会のやり取りにおいて、情報(建て前)をそのまま馬鹿正直に判断材料として用いてしまうと、誤った判断に至ってしまうことは珍しくない。〔……〕また、もし仮に AI が声色や表情を読み取って、発せられている言葉が本音ではないことを見抜くことができるようになったとしても、その状況における本音の意図を的確に捉えることは難しいであろう。その状況における様々な関連事項を、意味を踏まえた上で、声色や表情から読み取れる意図や感情と掛け合わせ、文脈として体系的に理解することができなければ、本音を探ることはできない。建て前(言葉)と本音(意図)の 乖離 の度合いは人や状況によって様々に異なる上に、声色・表情も人や状況によって都度異なるため、 AI がパターン認識を行おうとしてもデータが足りず、解を一つに収斂させるには不確実性が高すぎるのである。(764)
まぁ、人間でも他人のキモチを理解するのはムズかしいですかね。「いわんや AI をや」ってかんじです。ムリもありませんね。
仕事における AI と人間の棲み分け
膨大な情報・データを処理して定量的な/再現的な判断をアウトプットするという、 AI が得意とするタイプの仕事は必然的に AI に代替されていくが、そうではないタイプの仕事、即ち身体性ベースのマルチタスク型の仕事、直観/直感型の仕事、そしてクリエイティブ型の仕事では、今後も人間が活躍し続けると考えられる。(986)
過去のデータがあり、あるていど予測できる作業については、AI が担うようになります。
一方で、クリエイティブな作業だったり、これまで前例のないモノ&サービスを生み出す作業について、人間が担うようになります。
この棲み分けは、じょじょに進行していきそうですね。
ですので、いまのうちに AI ができない作業や業務のスキルを学び、市場での価値を高めておく必要がありそうです。
BI(ベーシックインカム) の特徴
「AI + ロボ」が進化すれば、労働が不要になります。そうなると、〝あぶれる人〟が出てきます。
そこで、生活を保証する BI (ベーシックインカム)が必要になります。
著者は、4つの特徴(要件)をピックアップします。
① 無条件給付である(受給のための条件や、年齢・性別・疾病の有無・就業状況等の制約が無い)
② 全国民に一律で給付される
③ 最低限度の生活を営むに足る額の現金給付である
④ 受給期間に制限が無く永続的である
という4つの要件が特徴である。(1197)
ポイントは、「無条件給付」と「最低限度の生活ができる現金給付」ですね。
ベーシックインカムについては、さまざま種類やアイデアがありますが、この2つの要件は外せません。
これが達成されれば、AI + ロボの進化による失業問題も解決できます。
また運用面からみたら、つぎのようなメリットがあります。
5点の長所とは、
① シンプルである
② 運用コストが小さい
③ 恣意性と裁量が入らない
④ 働くインセンティブが失われない
⑤ 個人の尊厳を傷つけない
である。(1210)
BI(ベーシックインカム)の問題点──財政問題
BI の2大問題は、「フリーライダー」と「財源」です。
つまり、「働かずに怠ける者をどうするか」と、「国民全員に配るお金をどこからもってくるか」の問題です。
前者についてもふれていますが、個人的に興味があったのは後者の財源問題です。
著者の提案は、こんなかんじです。
現在の日本の人口は約1.27億人。すなわち、BIを一人当たり月額8万円とすると、原資として必要となる財源は年間約122兆円である。この財源に充当できるのは、まずBI導入によって不要になる国民年金・基礎年金額の約22.2兆円、生活保護の生活扶助費の約1.2兆円、雇用保険の失業保険費約1.5兆円の計24.9兆円である。さらにBIは強者から弱者への再分配制度であるという観点から考えれば、強者の年金と言われている厚生年金の約32.4兆円も充当して良いだろう。そうすると、残る64.7兆円の財源の確保が必要となる。(1558)
国民全員に、月8万円配るとして、約122兆円の財源が必要になります。
そのために、年金・生活保護・失業保険を統合し、まかないます。
それにより、のこりは、約64.7兆円になります。
この額をまかなうために、さらに以下の財源をあてます。
消費税率アップで15兆円、金融資産課税で41.9兆円、法人税増税で2.9兆円で、これら3つだけで計59.8兆円である。先に試算したBI実施に必要な64.7兆円にはあと4.9兆円必要であるが、その分は高所得者の累進課税の強化、 奢侈的消費に対する物品税の導入、相続税の税率アップ/控除額圧縮等々、再分配機能の強化の原則に 則った財源は幾つも考えられる。(1674)
つまり、いまの年金・生活保護・失業保険にくわえて、消費税・金融資産課税・法人税増税などの税金でまかなおうと提案します。
ココのアイデアはいろいろですが、ひとつの案としては参考になりますね。
政治的・社会的な争点としては、BIの実現にむけて、税負担をどれくらい高められるか、にありそうです。
なぜAIとBIはセットで考えるべきなのか
AI 関連の本を読んでいると、なにかとベーシックインカムの必要性を訴えるものが多くあります。
個人的には、この関連性がギモンでした。
本書では、この問いついても答えていて、つぎの2つからAIとBIはセットで考えるべきとしています。
- 資本家による社会の完全支配状態
- もう1つは消費の減退による経済の崩壊
① については、こうのべます。
AI+ロボットによって代替されてしまう日も来るかもしれない。人間でなければ実現できない共感や癒やしは与えられなくても、物理的なお世話の部分は、AI+ロボットでも提供でき得るのである。こうした事態が意味するのは、これまでは資本と労働によって成り立っていた経済活動から、労働者の役割が消失してしまうということである。即ち資本/資本家だけで生産活動が完結してしまうということであり、これまでは資本家と労働者の利害の均衡の下に成り立っていた役割分担や産出した価値の成果分配のバランスが崩壊して、資本家の利害と意図のみで経済活動がコントロールされるようになってしまう。(2374)
つまり、AI + ロボによる過剰生産は、それらを運営する資本家の利益にしかなりません。
消費者=労働者を保証するために、BI が必要になる──そういうリクツです。
② については、こうです。
資本主義経済の最も重要なメカニズムは、需要と供給の〝均衡〟を達成する市場機能である。つまり、ある財に対する需要と供給のそれぞれの大きさ/パワーが均衡するポイントでその財の生産量と価格が決まり、需要側にとっても供給側にとっても現実的なオプティマムが実現するのである。 この需要と供給を均衡させるメカニズムは、生産される財だけに適用されるわけではない。生産活動に関与する労働と資本のバランスにおいても全く同様のメカニズムが働く。働き手が少なければ賃金が上がり、職を求める失業者が多ければ賃金は下がる。特殊な技術を持った数少ない技術者であれば高額の給料がもらえ、誰でもできるような仕事の給料は低くなる。資本の方も同様に、金余り状態で資金の出し手が多ければ資金の価格である金利は低下し、逆に資金が不足している状態だと金利は上昇する。こうした需給の均衡バランスが経済活動の合理性や健全性を保っているのである。(2379)
つまり、資本家だけにリターンがまわれば、お金が停留していまい、市場メカニズムが機能しなくなります。
生産と消費のサイクルをまわすためにも、消費できない人たちにお金を配る=BI を実施する必要があります。
この2つの理由から、AI と BI はセットで考えるべきだと主張します。
波頭亮『 AI とBIはいかに人間を変えるのか』のまとめ
著者はコンサルタントということもあり、ものすごく論理的にコンパクトにまとまっています。
ショージキ、目次だけをみても、どんな内容かなんとなく理解できてしまいます(笑)
とはいえ、こまかいデータや、ところどころ熱いメッセージがみられるので、そのかんじにふれない方は読んでみる価値はあります。
もちろん、「AI + ロボ」による進歩と、仕事&労働による変化を知りたい人にはおすすめの1冊です。
よければチェックしてみてください。
ではまた。

