【書評】『世界の歴史 21 アメリカとフランスの革命』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 21 アメリカとフランスの革命』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第21巻です。

『世界の歴史 21 アメリカとフランスの革命』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

第1部 啓蒙のかがり火、民衆のめざめ
1 植民地建設の息吹き
2 植民地社会の多様化
3 英本国に抗議する人びと
4 独立へ、内部革命へ
5 連邦体制の創設
6 連邦共和国の発展と試練
7 リパブリカン政権の優位

第2部 革命の嵐がヨーロッパをつつむとき
1 1789年の燃える夏
2 絶対王政が頑迷だったのか
3 渦巻く出来事 ─ 三部会から憲法制定へ
4 革命の軟着陸は可能か
5 徳性と恐怖 ─ ジャコバン独裁の時代へ
6 テルミドール反動と革命の収拾
7 ナポレオンのヨーロッパ

本書のテーマは、アメリカ独立戦争とフランス革命 ─ 。

両大陸で起きた2つの革命をメインに描いていきます。

第1部のアメリカでは、独立戦争までのプロセスと、その後の影響についてみていきます。

戦争後も、イギリスとの小競り合いはつづき、どれほど外交で苦労したか、よくわかります。できたばかりの国家のため、ヨーロッパの大国に、いつ〝食いもの〟にさせるか、わかりません。

そんな難しい舵取りを、ときのリーダーはどう乗りこえたのか ─ そのようすがよく描かれています。

また、国内の統治制度も整備されていませんでした。

憲法や基軸通貨など、国の根幹となるしくみを、ワシントンやジェファーソンをはじめ、いかにはなしをまとめていったのかも、くわしく描いています。

いっぽう第2部では、フランス革命の流れと、ナポレオンの盛衰をみていきます。

紙面上、ほかの概説書にくらべて、分量は多くありません。

けれど、かんけつな文体で、フランス革命とナポレオンによる帝政政治を、コンパクトに説明しています。

ざっくりとフランス革命を知りたい人には、おすすめかなと思います。

『世界の歴史 21 アメリカとフランスの革命』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • 自由を望んだ背景
  • 理念/現実のズレ

それぞれ、みていきます。

自由を望んだ背景

1775年、レキシントンとコンコードでの武力衝突をきっかけに、アメリカはイギリスと独立戦争を開始します。

結果、戦いに勝利して「アメリカ合衆国」を成立させます。

とはいえ、独立に至るまでは、国内でもさまざまな意見が飛びかっていました。

「イギリスにたてつくべきではない」
「いやいや、不当な課税を強いられている以上、独立やむなし」

などなど。

そもそも、統治機関の中枢だった大陸会議では、さいしょからイギリスからの独立を考えていませんでした。

では、なぜアメリカの人たちは、戦争を起こしてまで、イギリスから自由と独立を勝ちとろうとしたのか。

本書では、その要因のひとつとして、ヴァジニアの経済状況をあげています。

植民地としてスタートしたアメリカ ─ その主要産業は、農業でした。

土地はたくさんあるいっぽう、人手が圧倒的に足りません。大規模なプランテーションを営むには、どうしても黒人奴隷が必要でした。

ことの善悪はべつにして、たいていの農家では奴隷の姿が、ふつうにみられました。

じつは、この奴隷の存在が、イギリスの植民地だったアメリカ人に、独立と自由を志向させました。

というのも、

「このまま関税や貿易制限を強いられるなら、いま目のまえにいる黒人奴隷と同じ状態におちいるのでないか」

と、思ったからです。

つまり、自分たちがおこなっている仕打ちを、私たちアメリカ人が、イギリス本国から受ける ─ そんな危機感を抱くようになったからです。

将来への不安が、イギリスにたいする反抗をかきたて、自由と独立を求めさせるようになったわけです。

本書では、ほかの研究者の意見をあげながら、指摘しています。

プランターとして黒人奴隷を所有したヴァジニアの政治家が、なぜかくも自由にこだわったのか。歴史家のエドマンド・S・モーガンは、この点について、つぎのようなうがった見方をしている。

ヴァジニア人は日々に自由のない生活がいかなるものかを見ていたので、共和主義者にとって自由がかけがえのないものであることを、とりわけ見究めていたとみることができよう。

─ 3章 p.106

だとすれば、なんとも自分勝手なはなしです(笑)

仮説の域を出ないでしょうが、指摘どおりだとすれば、こんな理不尽なはなしはありません。

ご存知のとおり、黒人奴隷は、アメリカ社会に重くのしかかります。このエピソードからも、アメリカは生まれたときから人種問題を十字架として背負っていた、とわかります。

理念/現実のズレ

フランス革命は、出来事としてはおもしろく、本書でもキレのいい文体でドラマチックに描いています。

いっぽう、1789年の革命は、その後のフランスにどんな影響をあたえたのでしょうか。

経済の悪化と、それにともなう商人&農民のストレスが革命を引き起こしたにもかかわらず、じっさいの経済環境は、いっこうによくなりませんでした。

革命の経済政策は、あくまでも自由化を基本にしていた。〔略〕長期的な観点から、のちの時代までを視野におくならば、この経済自由化の考え方がフランスの資本主義発展に果たした役割は大きいだろう。しかし同時代にあっては、革命の政治的な動揺と戦争は、自由経済の安定を許すような条件をつくりはしなかった。

─ 13章 p.407-408

地方では農民の貧困がつづき、都心部ではインフレ(=アニシア通貨の暴落)が何度も起こります。

民衆がもとめた生活の改善は、まったく達成されません。そのため、あとからふりかえれば、1789年の革命は、近代国家の理念を示したにすぎないとわかります。

つまり、現実と理想に〝大きな開き〟があったわけです。

とはいえ本書では、理念を提示し、理想に沿ってプログラムをすすめいった ─ その過程がたいせつだった、とみています。

具体的には、

・公教育の整備
・暦&度量衡の設定
・行政地区の統合

などです。

これらのしくみをととのえ、近代国家へと変貌をとげたからこそ、産業化(工業化)の流れに乗ることができた、とします。

もちろん〝あとづけの感じ〟はありますが、革命をきっかけにフランスは近代社会への生まれ変わり、いまでも存在感を示している国家になったのは事実です。

革命の評価はいろいろですが、あとからみれば必要なサイクルだったといえそうです。

おわりに

以上のように、本書ではアメリカ&フランス革命をあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。