【書評】大野真弓『世界の歴史 8 ─ 絶対君主と人民』(中公・旧版)感想&レビューです。

どうも、りきぞうです。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

働くなかで思うのは、自分の市場価値をアップするには「教養」が大切だということ。

「できるなぁ」
「発想がすごいなぁ」

と、思う人は、キホン、教養を身につけています。

なかでも、重要なのは「世界史」です。

ここ数年、ビジネスマンの基礎知識として「世界史」が注目をあつめています。

ネット時代をむかえ、グローバル化が加速しているからです。

外国との交流が増えたことで、日本だけではなく、地球全体の歴史を知る必要が出てきました。

とはいえ、世界史は範囲も広く、どこから手をつければ良いか、わからないですよね。

分量も多くて、なんだかムズかしそう。。

そこでおすすめしたいのが、大手出版社から出ている「シリーズ本」を読むこと。

なかでも、こちらのシリーズは、さいしょに手にとってほしいです。

中央公論社が出した「世界の歴史」シリーズで「旧版」にあたるものです。

中公は、2000年代に、あらたに「世界の歴史」シリーズを刊行しました。

こちらを「新版」とよび、以前のシリーズは「旧版」といわれます。

じつは〝読みやすさ〟でいえば、「旧版」のほうがすぐれています。

「新版」のほうは、どちらかといえば「研究者」「玄人」むけ。

世界史の流れを理解・把握するには適していません。

絶版なのが難点ですが、古本屋 or ネット通販をつかってゲットしてほしいと思います。

きょうは、第8巻にあたる

を紹介したいと思います。

「8」では、ヨーロッパ地域・[宗教戦争〜絶対王政の確立]までをあつかっています。

年代としては、1600年〜1800年ごろにあたります。

大野真弓『世界の歴史 8 ─ 絶対君主と人民』(中公・旧版)の概要

まずは目次から。

こんなかんじです。(※ こちらの都合で、番号をふりました。)

1 血なまぐさい宗教戦争
2 ブルボン王権の歩み
3 オランダの繁栄
4 ピューリタン革命
5 王政はなおつづく
6 ルイ太陽王
7 ロシアのあけぼの
8 ハンマーをふるう帝王
9 軍国プロシアの勃興
10 陽気な貴婦人革命
11 ロココの人々
12 君臨すれども統治せず
13 イギリス人の生活
14 古い社会と新しい思想

1で、宗教戦争の概要。

2、6で、フランス史。

3で、オランダ史。

4、5、12、13でイングランド史。

7、8、10で、ロシア史。

9で、ドイツ(プロシア)史をあつかいます。

年代順になっているので、1から順々に読んでいってもオーケーです。

各国ごとの流れをたどりたい場合は、飛ばし飛ばしで目をとおすのがおすすめです。

文体もカンケツで、読みやすい。

内容については、政治・経済・文化 ─ ジャンルをバランスよくあつかっています。

とくに、「アンリ4世」「リシュリュー」「ピュートル1世」など、歴史上の人物について、おもしろく描いています。

大野真弓『世界の歴史 8 ─ 絶対君主と人民』(中公・旧版)の詳細

以下、気になったトコを、カンタンにみていきます。

ポイントは、つぎのとおり。

  • 「ナントの勅令」の背景
  • リシュリューの画策
  • ピョートル1世の魅力

ひとつひとつ、のべていきます。

「ナントの勅令」の背景

フランスでは、「アンリ4世」が、国王につきます。

かれはいまでもフランスで人気のある政治家です。

なぜか。

それは、宗教にたいして寛容政策をとり、国内に平和をもたらしたからです。

当時フランスでは、[カトリック / 新教徒]のあいだで、争いが絶えませんでした。

しかも、アンリ4世が信仰する「新教」は、国内の信者は 1/6 にも満たない数でした。

フランス王国の 5/6 がカトリック信者だったわけです。

この状況にアンリ4世は、アタマをかかえます。

〔……〕フランス王国の約 1/6 が、この新しい王を支持するのみで、少数の中立をのぞいて、ほかの大部分はカトリック勢によって占められ、〔……〕新教徒の王を認めようとしない。アンリ4世は自嘲をこめていっている ─ 「王国も兵士を金もない王、妻もない王」。(p.37)

そこでかれは、思いきって、「カトリックへの改宗」を決断します。

みずからの「信条」はワキにおき、国王にふさわしく、民衆の平和を最優先に考えたわけです。

宗教上の和解を、そして、国内の和平を実現させるためには、国民の多数をしめているカトリック教徒を満足させねばならないということ ─ かねてからそれを知っていたアンリ4世は、いまやそのチャンスをつかんだのだ。〔……〕カトリック同盟の狂信的な信徒たちは、この改宗の偽善性を攻撃したが、大部分のカトリック教徒たちは、はたせるかなこれを歓迎したのである。(p.38)

かれは、愛人「ガブリエル=デストレ」への手紙で、

この日曜日に、わたしはとんぼ返りをうつことにする。(p.39)

と表現しています。

さらに、ユグノーなどの新教徒にたいして、カトリック信徒とほぼ同じ権利を与えます。

これが「ナントの勅令」です。

〝名(=宗教)をすて、実(=和平)をとった〟わけです。

これが「アンリ4世」が、いまでも人気である理由です。

ルイ14世が廃止

しかし残念なことに、その後、「ルイ14世」が、ナントの勅令を廃止します。

カトリックに1本化して、絶対王政を強化するためです。

本書では、これは最大の失政だと指摘しています。

ルイ14世の大きな失政、〔……〕ナントの勅令を廃止したことであった(1658年)。王は、元来この勅令を宗教内乱を終わらせるための一時的・便宜的なものとみなし、〔……〕国民の宗教を国教カトリックで統一することが、絶対王政確立のうえで、必要と信じたのである。(p.257-258)

政治はつねに状況に左右されます。

とはいえ、寛容性をすてると、たいてい良い結果は生みません。

しぜん、フランス国内は、ふたたび宗教対立が、激しくなります。

② リシュリューの画策

アンリ4世のあと、フランス国内を取りしきったのが、宰相「リシュリュー」です。

かれは、狡猾で有名ですね。

とはいえ、よく読むと、あらゆる画策は、すべてフランス国の維持し、発展させるため、とわかります。

宗教による内乱がおさまっていたとはいえ、フランス国内は、まだまだ乱れていました。

行政のトップといえども、リシュリューのまわりには、敵がたくさんいました。

なかでも、

・新教徒
・大貴族

の2大勢力は、リシュリューにとって、対抗すべき相手でした。

フランス発展のためには、〝うまくやって〟いく必要がありました。

そこで、新教徒にたいしては、信仰の自由を認めるいっぽう、政党・党派など、あらゆるグループを打ち壊します。

アンリ4世の「寛容政策」を引きつぎ、信仰の自由は認めつつ、政治・行政には、介入させない作戦をとります。

〔……〕ナントの勅令は、新教徒に政治的・軍事的な安全保障地域を許していた。そこでかれらは、こうした地域、とくにラーロシェルという都市を拠点としつつ、フランス王国内に、一種の共和国を形成するおそれがあった。そこでリシュリューは、新教徒という政治党派を解体させようとしたわけだ。(p.47)

さらに、新教徒を応援するイギリスの介入を阻止 ─ 。

こうして、軍事力をうしなう新教徒は、おだやかにフランス王国に組み込まれていきます。(1629年)

いっぽうで、大貴族にたいして、リシュリューにたいする暗殺・陰謀を見抜き、罪に問います。

こうして、貴族勢力を追いはらってうえで、みずからの権限を確保していきます。

「国家にたいする反逆罪において、慈悲心には門を閉ざさねばならぬ」 ─ リシュリューはさすがに王家の人びとだけは許したものの、ほかの貴族たちにたいしては、まことに峻厳であった。(48)

さらに外交面では、ハプスブルクの勢力を牽制します。

けれど後年、国王「ルイ13世」が寵愛する「サン=マール」の陰謀によって、外交戦略が破綻しかけます。

サン=マールは、ハプスブルク家のスペインと密約をむすび、フランスに攻め入ろうとします。

三十年戦争でフランスと戦いつつあり、しかも、形勢不利なスペインとしては、フランスの内紛こそ、何よりありがたい。スペインは財力・兵力を提供する代償として、独仏国境に一要地を得るという取引が成立する。何ということだろう! これこそ、リシュリューが多年心血をそそいだハプスブルク対抗策、フランス国境線強化の瓦解ではあるまいか。(p.57)

ここにきて、みずからの能力に限界を感じたリシュリューは、しずかに息をひきとります。

こうみてくると、陰謀家・策略家というより、ひたすらフランス国のために生涯をささげた人物にみえます。

一般的なイメージより、ずっと〝かしこい人〟だったのかもしれません。

ピョートル1世の魅力

さいごは、ロシアを近代国に引き上げた「ピョートル1世」です。

かれは、政治家よりも、ひとりのキャラクターとして、目をひきます。

ピョートル1世は、軍事行政に長けていました。

けれどこれは、子どもころから〝戦争ごっこ〟が好きだったことに由来します。

むかしから、軍隊遊びばかりし、成人すると、ほんとうの軍隊をもつようになりました。

ピュートルは〔……〕遊技隊をひきいて、モスクワ郊外の森林や丘陵をとびまわり、〔……〕兵器をつんだ数台の馬車がしたがった。まもなくピュートルのもとに、遊技隊司令部・遊技隊官舎・遊技隊経理部ができ、隊員の着用する「濃緑色の制服」がきめられた。〔……〕こうして、ピュートルの遊技隊は、しだいに西欧式の「常備軍」にかわり、ピュートルの〝あそび仲間〟から、新しい官僚群が育っていった。(p.288)

なんだか小説みたいなはなしです。

けれど事実として、たいへんおもしろいエピソードですね。

さらに後年、軍事費・増大により、財政赤字に悩んだかれは、さまざまなモノに課税をかけます。

一例をまとめると、こんなかんじ。

・帽子
・木炭
・革製品
・風呂
・キュウリ
・あごひげ

なんだかウソみたいですよね(笑)

これだけでも「ピュートル1世」の魅力が、伝わってきますよね。

もちろん、当時の民衆からしたら、たまったものではなかったでしょうが。。

おわりに

旧版ながら、この「世界の歴史」シリーズは、かなり読みやすく、おすすめです。

ムズかしい用語を、ほとんどつかわず、一般の人がみても、わかるように書かれています。

なにより、知的好奇心をうながすように、歴史をたどるため、読んでいて飽きません。

ざっくり、かつ、ある程度、くわしく世界史の流れを知りたい人には、もってこいの1冊です。

よければチェックしてみてください。

ではまた〜。