【書評】酒井隆史『ブルジット・ジョブの謎 ─ クソどうでもいい仕事はなぜ増えるのか』

どうも、りきぞうです。

これまで5000冊ほどビジネス書&教養本を読んできました。

今回、酒井隆史『ブルジット・ジョブの謎 ─ クソどうでもいい仕事はなぜ増えるのか』を読んだので紹介します。

ポイントは、つぎのとおり。

ポイント
・本書はグレーバー『ブルシット・ジョブ ─ クソどうでもいい仕事の理論』の解説本
・翻訳者がブルジット・ジョブの種類から発生プロセスまで、わかりやすく説明している
・いまの日本経済において、非生産的な仕事や業務が蔓延している理由も、本書を読めば理解できる

個人的な評価は、こんなかんじ。

評価
分量
(3.0)
面白さ
(4.0)
おすすめ度
(4.0)

以下、目次に沿って、みていきます。

『ブルジット・ジョブの謎』の概要

出版社の紹介文は、つぎのとおり。

誰も見ない書類をひたすら作成するだけの仕事、無意味な仕事を増やすだけの上司、偉い人の虚栄心を満たすためだけの秘書、嘘を嘘で塗り固めた広告、価値がないとわかっている商品を広める広報……私たちはなぜ「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」に苦しみ続けるのか? なぜブルシット・ジョブは増え続けるのか? なぜブルシット・ジョブは高給で、社会的価値の高い仕事ほど報酬が低いのか? 世界的ベストセラー、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ ─ クソどうでもいい仕事の理論』の訳者による本格講義!

─ 出版社から

本書は、イギリスの人類学者グレーバーの『ブルシット・ジョブ ─ クソどうでもいい仕事の理論』の内容をわかりやすく解説したもの。

みてわかるとおり、ブルジットジョブ(不要かつ不利益な仕事)の種類と発生プロセスを論じるのがメインテーマとなります。

本の最後では、ブルジットジョブの解決策して、ベーシックインカムの可能性も提案しています。

『ブルジット・ジョブの謎』のポイント

ポイントは、つぎの2点です。

  • ブルジット・ジョブの定義と影響
  • エッセンシャルワークとの違い

それぞれ、みていきます。

ブルジット・ジョブの定義と影響

ブルジットの訳語は「でたらめ、うそ」とされるのが、ふつうです。

ただし、それだとブルジットが含む独特のニュアンスが失われます。

「ブルジットジョブ」と言うときのブルジットは「テキトー」や「どうでもいい」という意味合いがつよい。

つまり、ブルジットジョブとは、

なくても困らず、ときには有害になる仕事&業務

といった定義となります。

そのような仕事をグレーバーは、つぎの5つに分類しています。

・取り巻き
・脅し屋
・尻ぬぐい
・書類穴埋め人
・タスクマスター(課題名人)

どれもキャッチーで、インパクトのある仕事です(笑)

本書ではそれぞれの業務内容が書かれていて、それに携わっている人はドキッとするはずです。

仕事の内容もさることながら、面白いのは、シットジョブとブルジットジョブの違い。

シットジョブとは割に合わない仕事をさします。

つまり、労力をかけた割には報酬が見合わない作業&業務のこと。いまでいえば「コスパの悪い仕事」です。

いっぽうブルジットジョブは、

不要にもかかわらず、報酬が発生する仕事

です。

グレーバーは、この種のブルジットジョブがあふれかえり、働いている人を心理面で苦しめている、と指摘します。

シットジョブならば、損得勘定にもとづき転職すれば良いだけですね。

いっぽうブルジットジョブは、なまじ給料をもらえることが、やっかいな点です。

働く本人は「こんなの作業はムダだよぁ」と自覚しつつも、

「お金のためなら、役に立たず、ときには有害であっても、がまんをしてやるしかない……」

と、思ってしまう。

こんなジレンマをかかえてしまうのが、ブルジットジョブの難点であり、その問題点と解決策をしめすのが本書になります。

エッセンシャルワークとの違い

ブルジットジョブと対比されるのが、エッセンシャルワークです。

かんたんに言えば、

世の中にとって必要不可欠な仕事

です。

たとえば、

・看護
・警備
・建設作業

などです。

ここでグレーバーが指摘するのが、

どうしてエッセンシャルワークの報酬は低いのか?

という問題です。

必要とされているのなら、給料が高いはずです。

しかし、そうなってはいない。

(日本をふくめて)資本主義経済が普及した社会では、エッセンシャルワークの報酬は、きわめて低いのが一般的です。

かたや(必要もなく、ときに有害とされる)ブルジットジョブの報酬は、やたら高い。

このアンバランスは、なぜ起こるのか。

グレーバーは、労働観そのものに原因がある、とみています。

エッセンシャルワークは、世の中になくてはならない仕事ゆえに、

「本人が好んでやっているんだろ?」

と思われているフシがある。

たとえば、教職はその典型で、たとえツラくても、

「人を育てるという美徳をもとに働いているんだから、お金のことはウダウダ言うな」

と、思われがち。

その結果、報酬金額は下がり、低収入の状態が続くことになる。

正直このような見解は、ヨーロッパ圏外で生きるわたしたちにとっては「???」といった印象をうけます。

マックス・ヴェーバーが指摘したように、プロテスタントの人たちは、神へ奉仕として労働を〝崇高なもの〟と考えたからです。

ヨーロッパでは、労働にたいして独特の倫理観があり、その考えがかたちを変えて引き継がれている。

かたや日本では「労働=必要」という視点はあっても、宗教を基盤とするような考え方は、ありません。

なので、ブルジットジョブの給料が高く、エッセンシャルワークの低い理由を、この労働観の違いだけで説明するのは、すこし無理があります。

とはいえ、グレーバーの意見はひとつの見解としては面白く、日本は日本なりにブルジットジョブ(不要かつ不利益な仕事)が蔓延する背景を探るのも、今後の流れとして起きると思います。

『ブルジット・ジョブの謎』の感想

ブルジットジョブの種類から、どうでもいい仕事が増殖するプロセスを解説している点が、本書の魅力です。

いっぽうで本の終盤では、ブルジットジョブを失くす解決策として、ベーシックインカムの可能性をとりあげています。

さいきんではベーシックインカムの議論は、いろんなところでなされていますが、本書ではブルジットジョブを消滅させる思考実験として提案しています。

ベーシックインカムにたいする反対意見としては、

「生活できるだけのお金を配ったら、人は働くなるだろ?」

といったものがあります。

このときのグレーバーの反論が、ふるっています。

まとめると、こんな意見です。

そもそも、いまの資本主義経済で「働いてる」といっても、そのたいはんはブルジットジョブで、不要な作業か、ときには有害な業務ばかりだ。むしろ、ベーシックインカムをひろめ、本人の幸福度を上げたまま、毒にも薬にもならない仕事をさせておくほうが、社会の視点からみても、よっぽど有益である。

これを読んだとき、わたしは改めてベーシックインカムのメリットを感じました。

ブルジットジョブの愚かさを知っているからこそ、反論できる内容だな、思いました。

おわりに

酒井隆史『ブルジット・ジョブの謎』をみてきました。

まとめると、こんなかんじです。

ポイント
・本書はグレーバー『ブルシット・ジョブ ─ クソどうでもいい仕事の理論』の解説本
・翻訳者がブルジット・ジョブの種類から発生プロセスまで、わかりやすく説明している
・いまの日本経済において、非生産的な仕事や業務が蔓延している理由も、本書を読めば理解できる

国の違いはあれど、資本主義がいきついた先にブルジットジョブが蔓延するのは共通しています。

その特徴と発生プロセスを明確に述べているのが本書です。

会社や組織に勤めていれば、だれもが心当たりのあることが書かれています。

自分の仕事な疑問をもっている人にとっては、なにかしらのヒントにはなります。

よければチェックしてみてください。