【書評】『世界の歴史 10 西ヨーロッパ世界の形成』

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうはつぎの本を紹介します。

『世界の歴史10 西ヨーロッパ世界の形成』概要

まずは本書全体の目次から。こんなかんじです。

1 地中海のほとりで
2 ゲルマン人の国家と政治
3 転換期の心性と日常生活
4 初期の経済と社会
5 文人たちの肖像 ─ ことばと政治
6 新たな勢力と社会のしくみ
7 森と獣と土塊の物語
8 封建制下の騎士と農民
9 キリスト教世界の展開
10 都市の革新
11 水と細菌と炎の物語
12 国民国家の懐胎

本書のテーマは、中世ヨーロッパ史 ─ 。

「ゲルマン人の進出」から「百年戦争」のころまであつかいます。

年代でいえば、400年〜1400年 ─ 約1000年間です。

ほかの関連書とちがい、政治史はすくなく、人びとの生活史&文化史が中心です。

「皇帝と教皇の争い」や「英仏独のかけひき」などを期待すると、かたすかしをくらうかもです。

偉人ではなく、一般人の「信仰のようす」「仕事のやり方」「食生活」を知りたい人なら、満足できる内容です。

『世界の歴史10 西ヨーロッパ世界の形成』詳細


以下、気になったトコをあげていきます。

つぎの2点です。

  • 侵入前のゲルマン人
  • イタリア人文主義の背景

それぞれ、くわしくみていきます。

侵入前のゲルマン人

教科書では、フン族に追われたゲルマン人が、ローマ帝国の領土に自分たちの国をつぎつぎにたてていった、と習います。けれど、コトはそう単純ではありませんでした。

じつは本格的に侵入するまえから、ゲルマン人とローマ人のあいだには、活発なやりとりがありました。375年になって、ゲルマン人たちがローマ領内に押し入り、いきなり建国していったわけではありません。

進出するまえから、ゲルマン人はローマ帝国の組織にくみこまれ、軍人として活躍していました。じじつ、西ローマ帝国を滅亡に追い込んだオドアケルは、征服者ではなく、ローマ帝国軍の傭兵でした。

ここからも、ゲルマン人とローマ人の緊密なつながりが、うかがえます。

さらにいえば、平時の状況では、商取引までおこなっていました。

もちろん戦時では、領土をめぐり、食うか食われるかの争いです。けれど通常時では、交易をおこない、お互いとって利益になるような関係をきずいていました。

長城の両側ではローマ兵とゲルマン人とが、いつも緊張して対立していたというわけではなかった。「蛮族」がときおりしかけてくる攻撃のさいには、むろん血みどろの戦闘がくりひろげられたものの、平穏時にはメーリス〔≒ 防壁〕をはさんでの人の往来や、商品の流通、ローマ人商人の出入りがひんぱんにおこなわれ、むしろこちらのほうが普通の姿だった。(p.47)1章

侵入まえのゲルマン人のようすは、資料がすくないぶん、これからも新しい事実がいろいろわかってきそうです。

イタリア人文主義の背景

中世後期、ルネサンスにむけて、人文主義が興ってきます。エラスムスやラブレーなどの人物が有名ですね。

「人文主義者」と訳されるユニマニストは、さいしょイタリアで流行ったとされます。教会の堕落をきっかけに、それまでベールにつつまれていた人間本来の特性をつかむために、人文主義運動はおこった ─ 教科書でも、こんな説明をされます。

しかし本書のアプローチは、すこしちがいます。

考えてみれば、教会の腐敗をきっかけに人びとが目覚めた、というのはすこし唐突な気がします。ではじっさい、どんな経緯をたどり人文主義運動がおこったのか?

当時のイタリアでは商取引が盛んで、帳簿をはじめ、あらゆるものごとを記録する風土がうまれていました。

取引が活発になったことで、メモしておかないと、収入/支出の状況が、わからなくなってしまうんですね。

忘れて損しないためにも、紙での記録は、不可欠でした。

そのため、しぜんと人びとのリテラシー(文字作成能力)が上がり、それが学術運動・人文主義運動のベースとなった ─ 本書では、こんなふうにみていきます。

かくて「もの書き商人」、教養ある商人たちが増えたことが、都市の市民全体に、合理主義や現世是認の世界観をひろめて、フィレンチェなどの人文主義の温床になったにちがいない。(p.325)10章

仮説の域は出ませんが、わたしとしては、この説明のほうがしっくりきます。

個人のインスピレーションが人文主義をひきおこしたというより、学術運動をもたらす現実面での素地があったというほうが、納得がいきます。

歴史をみているとわかりますが、世の中をかえる要素としては、経済面(マーケットのうごき)のほうが大きい。

ユニマニスト運動も、その典型として、たいへんおもしろいですね。

人文主義者たちは、都市の現実から遊離して、古代世界を夢想していたのではけっしてない。かれらは鋭い歴史意識をそなえていたし、市民たちのために、理想的な家族の一員として、あるいは、職業や政治にたずさわる者として、いかなる教育をうけ、美徳を身につけるべきかを提言しているからである。(p.325-326)10章

おわりに

以上のように、本書では生活史&文化史をメインにあつかっています。

政治史のかけひきを期待する人には不満かもですが、人びとの〝生々しい暮らし〟を知るには、おすすめです。

それければ、手にとってみてください。