【書評】『世界の歴史 18 ラテンアメリカ文明の興亡』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 18 ラテンアメリカ文明の興亡』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第18巻です。

『世界の歴史 18 ラテンアメリカ文明の興亡』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

1 最初の遭遇
2 インカ、百年の王国
3 征服されたインディオ
4 成熟する植民地社会
5 インカを探して
6 カリブの海賊
7 シモン・ボリーバルとスペイン領アメリカの独立
8 ロサスとフアレス
9 ブラジル帝国
10 メキシコ革命
11 ヴァルガスとペロン

本書のテーマは、ラテンアメリカ ─ 。

スペインを中心とした西洋諸国が、植民地化したあとの時代をあつかいます。

年代でいえば、1500年〜1800年あたりです。

ポトシ銀山での強制労働など、暗いイメージのつよい植民地時代 ─ 。

しかし本書では、ネガティブな側面だけでなく、侵略されたインディオたちが、西洋の国々に、どう対応していったのか ─ 当時の資料をもとに、ていねいに描いています。

もちろん、インカの人びとが、過酷なあつかいを受けていたのは、事実です。

けれど、たんに言いなりになっていたわけではなく、西洋の文化&技術をとりこみ、アンデス社会を発展させたのも、また事実です。

そのあたりの両面を、価値判断をなるべく抑えながら述べています。

侵略者のまえに、先住民たちは、なすがまま蹂躙された ─ そんな偏見をもっている人ほど、本書は役に立ちます。

『世界の歴史 18 ラテンアメリカ文明の興亡』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • インディオ社会のしくみ
  • ポトシ銀山の企業運営

それぞれ、みていきます。

インディオ社会のしくみ

スペインによる侵略のまえに、インディオの人たちは、どのような社会をいとなんでいたのか。

アンデス地域、いまのペルー付近の生活をみていきます。

西洋諸国が進出するまえ、アンデス一帯はインカ王国がおさめていました。

インディオというと、部族単位で素朴な生活をしていたイメージがつよいです。しかし「インカ王国」の名のとおり、しっかりと王朝をきずいていました。

当然ながら、権力争いも過酷で、王国がつくられるまで、親族間での血なまぐさい抗争が続けられていました。

「自然に帰れ」式の、ユートピアだったわけではありません。

そのなかで、民衆にたいして、国王は、どうふるまっていたのか?

当時のアンデス地域では、「互酬」をベースに社会がつくられていました。それなりに顔を知った者どうしが、モノや労働力を交換し合う ─ ひらたくいえば、持ちつ持たれつの関係で、共同体(=アイク)が維持されていたわけです。

そのさい国王(=首長)に求められていた役割は、人びとへの贈与です。金銀の宝、衣装、豪勢な食料を、大いに振る舞うことが、期待されていました。

そのような施しがあってはじめて、人びとは臣下となり、相手を「王」として認めていました。

クラカ〔首長〕層の権威は、アイユ民にどれだけの貴重な財を「大盤振る舞い」できるか、ということにかかっていた。インカ王は、まさにこのような互酬関係の頂点へと向かっていったのである。

─ 2章 p.92

互酬性をベースに王国がきずかれていた ─ ここがインディオ社会の特色と面白さです。

そして、そのような慣習からか、王といえども、けっして悠々自適に過ごしていたわけではありません。人びとの要求に応えられるように、つねに資産を蓄えておかなくてはならず、高い管理能力が求められていました。

なかには、人びとにふるまうモノがなくて「すっぴんかん」になる首長までいました。

このあたりは、現代の社長さんにも、当てはまりそうな話ですね。いつの世でも、トップは苦労します。

ポトシ銀山の企業運営

教科書などでは、侵略したスペイン人は、インディオを奴隷にして、過酷な労働をおしつけた、とあります。

ポトシ銀山での強制労働が、その例です。

しかし、ことはそう単純ではありませんでした。

すこし考えてみればわかりますが、捕虜にしたインディオをこきつかえば、労働力がすり減り、じょじょに生産性も下がっていきます。使役させるほうからしても、過酷な強制労働は、割りに合わないわけです。

そこでスペイン人は、生産性を維持させるために、インディオ自身を現場監督におき、利益の一部を獲得しようとします。

使う側/使われる側で摩擦が起きないようにして、作業を効率化させ、より大きなリターンがあげるようにします。

組織運営を考えれば、当然の結果です。

さらにここから、現場監督に就いたインディオから、商魂たくましい人たちが、あらわれます。かれらは、スペイン人とインディオのあいだに立ったうえで、仲介利益をあげることに成功します。

つまり企業家としての地位を確立したわけです。

古典的なポトシ像は、銀の亡者と化したスペイン人のもと、インディオが苛酷な境遇に喘ぎながら労働するというものであったが、最近の研究は、すこし異なった風景があらわれていたことを伝えている。少なくとも初期の時代は、インディオが生産の諸局面を主導していた事実が認められる。

─ 3章 p.160

ショージキ、本書を読むまで、この点はまったく知りませんでした。

もちろん、インディオのなかには、ふつうに強制労働をさせられ、貧しい生活をいとなむ人たちもいました。けれど一部の人は、現場監督の立場から、利益をあげ、企業家として成功しました。

このあたりは、教科書や概説書を読むだけでは、なかなかわからない事実です。

スペイン人の言いなりにならずに、異文化をうまく吸収し、利益をあげる ─ したたかで、かしこいインディオの姿を、ここにみることができます。

鉱石の大部分をインディオたちが手中にする事態が生じていたのである。この状況を「インディオたちがペルー王国の富を所有していた」と、ポトシ草創期を回想したスペイン人鉱山業者は言い表している。〔略〕財政危機にひんした本国の王室が、その到着を心待ちにしていた銀の多くは、インディオ社会に流れていったのである。

─ 3章 p.161

とはいえ、企業家精神あふれるインディオは、侵略初期のころにみられるだけで、その100年後には、すっかりその影をおとしてしまいます。

バイタリティ低下のプロセスも、本書ではていねいに描いているので、よければチェックしてみてください。

おわりに

以上のように、本書ではラテンアメリカの歴史をあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。