【書評】渡辺努『物価とは何か』 ─ 日本の物価が上がらない理由をさぐる

どうも、りきぞうです。

これまで5000冊ほどビジネス書&教養本を読んできました。

今回、渡辺努『物価とは何か』を読んだので紹介します。

ポイントは、つぎのとおり。

ポイント
・本書では経済学の観点から「物価」について解説する
・物価の定義、物価の変動プロセス、物価のコントロールなど、価格をめぐる問題を分かりやすく説明する
・日本の物価が上がらないのは、「価格据え置き」の慣行が、日本市場全般にはたらいているため、とみている

個人的な評価は、こんなかんじ。

評価
分量
(3.0)
面白さ
(3.0)
難易度
(4.0)
おすすめ度
(3.5)

以下、目次に沿って、みていきます。

『物価とは何か』の概要

出版社の紹介文は、つぎのとおり。

あのバブル絶頂時、そしてその崩壊、いずれのときも意外なほどに物価は動かなかった。それはなぜか?
お菓子がどんどん小さくなっている……なぜ企業は値上げを避けるのか? インフレもデフレも気分次第⁉ 物価は「作る」ものだった?
経済というものの核心に迫るための最重要キーである、物価という概念。国内第一人者が初歩の初歩から徹底的にわかりやすく説き起こし、社会にくらす私たち全員にとって、本当に知るべき経済学のエッセンスを教える、画期的入門書の登場!

─ 出版社から

マクロ経済の専門家が「物価」について解説する内容です。

経済学の専門家といっても、ムズかしい用語や数式を用いることはなく、ふだんわたしたちが使う言葉で、ていねいに語っていきます。

貨幣にかんする理論や、経済政策の経緯や歴史を、きょくりょく専門用語は使わずに解説しています。

著者本人が、大学以外にも、日銀や一般企業で勤めていたこともあり、ふつうのマーケットで暮らす人たちにも分かるよう、物価と貨幣の関係について説明しているのが好印象です。

『物価とは何か』のポイント

個人的におもしろかったのが、

なぜ、日本の物価は上がらないのか?

という問題です。

著者は、その背景に、

価格据え置きの慣行がはたらいている

と、みます。

ほんらい価格(物価)は、需要と供給に合わせて変動します。

需要が多ければ価格は上がり、供給が多ければ価格は下がります。

しかし日本は、この20年ほど物価がほとんど変わっていません。

データでみれば、じょじょにモノの値段が下がり、〝ゆるやかなデフレ〟が長期にわたり続いている状態です。

では、どうして物価は上がらないのか。

それは、

日本の市場全般に「価格据え置き」の圧力がかかっているから

です。

具体的には、わたしたちが消費者(需要サイド)が、価格の引き上げを許さないからです。

その証拠に、本書では「値上げをした店にたいする消費者の反応」にかんするアンケート結果を示します。

それによると「1割の値上げ」でも、「同じように買う」よりも「もう買わない」と答える人のほうが、15%多かったそうです。

このように、いまの日本市場では「値段の引き上げ」を許さない流れが生まれています。

そのために企業や会社も、なかなか価格の引き上げにふみきれずにいます。

理由はかんたんで、たとえ1社がモノの値段を上げたとしても、(価格据え置きの慣行ゆえに)ほかの会社は価格を引き上げることなく、消費者はそちらのほうに流れていってしまうからです。

結果、値上げをした会社の売り上げは落ち、利益がなくなることで、経営危機におちいります。

このようなプロセスを恐れて、企業(供給側)は価格を引き上げられず、消費者(需要側)は低価格に慣れたまま、日本市場では価格が上がらない状態が続いていきます。

〔中略〕店舗は客を失うのが怖いので、価格に転嫁することを躊躇します。どの店舗も同じような状況にあるので、おたがいが牽制し合い、ある店舗での「価格を更新しない」が、ほかの店舗の「価格を更新しない」を誘発するという連鎖が発生します。客が媒介するかたちで、ある店舗の価格と、別な店舗の価格に相互作用が発生するのです。

─ 4章 p.270

著者はあくまで、ひとつの仮説としていますが、データや理論をふまえると「るなかなか説得力のある話だな」と感じました。

なお、著者は、日本の物価が上がらないメカニズムを述べたあと、いくつか処方せんを提示しています。

くわしくは本書を読んでほしいんですが、どれも良いアイデアだとは思うものの、それ以上に「いまの日本市場の〝デフレ圧力〟は深刻なんだな」と、ひしひし思わされました。

個人的には、よく言われているように、労働市場を流動化させたうえで、新たなイノベーションを誘発し、供給サイドが価格向上にふみきるしかないような気がしました。

『物価とは何か』の感想

ほかにも本書では、

・物価の定義と特徴
・物価の変動プロセス
・物価のコントロール

など、モノの価格にかんする話が、分かりやすい口調で述べられています。

ケインズやフリードマンといった偉人による経済理論から、「ナラティブ経済学」などの最新研究から、物価を扱っています。

経済学の入門書としても、おもしろい1冊です。

おわりに

渡辺努『物価とは何か』 をみてきました。

まとめると、こんなかんじです。

ポイント
・本書では経済学の観点から「物価」について解説する
・物価の定義、物価の変動プロセス、物価のコントロールなど、価格をめぐる問題を分かりやすく説明する
・日本の物価が上がらないのは、「価格据え置き」の慣行が、日本市場全般にはたらいているため、とみている

この記事が、役立つビジネス書&教養本を探している人の参考になれば、うれしいです。

では、また。