【書評】『世界の歴史 26 世界大戦と現代文化の開幕』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 26 世界大戦と現代文化の開幕』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第26巻です。

『世界の歴史 26 世界大戦と現代文化の開幕』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

第1部 第一次世界大戦 ─ 激動期の始まり
1 予想外の戦争
2 大戦下の西欧社会
3 アメリカと第一次世界大戦
4 二つの帝国の崩壊
5 第一次世界大戦の終結

第2部 宙吊りの世界 ─ 1920年代の欧米社会
1 講和と新体制の模索
2 戦後経済と国際政治体制
3 繁栄と混乱の一九二〇年代アメリカ
4 西欧の政治・社会と文化
5 ロシア、東欧の社会と文化
5 「危機の前の危機」

第3部 国家の重み ─ 1930年代
1 世界恐慌
2 ナチズム体制
3 ニューディール体制
4 スターリンの時代
5 1930年代の現代文化
6 第二次世界大戦への道

おわりに ─ 「戦争は静かに始まった」

テーマは、第一次大戦とその後の世界 ─ 。ちょうど第二次大戦の直前まであつかいます。

アメリカ、ドイツ、ロシアなど、おもにヨーロッパエリアを軸に描いていきます。

3人の著者で書かれていますが、文体は統一されているので、ちゃんと1冊の本として読むことができます。

第一次大戦前後のヨーロッパ諸国を知るには、もってこいです。

たんに政治史だけでなく、文学や絵画など、芸術分野にもふれているので、1920〜1930年代の時代を、立体的に把握できると思います。

そのぶん、ヒトラーやスターリン個人のエピソードが少ないので、やや物足りないと感じるかもですが。

『世界の歴史 26 世界大戦と現代文化の開幕』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • 第一次大戦後のドイツ経済
  • ニューディールの成果

それぞれ、みていきます。

第一次大戦後のドイツ経済

第一次大戦後、敗北したドイツは、

・アルザス=ロレーヌの領土分割
・多額の賠償金

など、重い戦争責任を背負わされることになった ─ そしてこれら負担が、ドイツ市民を苦しみ、耐えかねた民衆たちは、ヒトラーの政策にすがり、ナチスを生んだ。

世界史の教科書をふくめ、一般にはこんなふうに説明されます。

ですが、以上のような〝おはなし〟は、立ち止まってみたほうがいい、と本書では注意をうながします。

というのも、ナチスにはしった理由を、ヴェルサイユ条約での重い負担にもとめるのは、ドイツ人による視点(バイアス)が、たぶんにふくまれているからです。

講和条約による一方的被害者ドイツというイメージを世界に広めたのは、当のドイツ自身であり、当時のドイツ歴史学者も一種の国家事業として、ドイツの戦争責任を否定する論陣をはった。このイメージはまったくの誤りでないが、当事者の主張に依拠したものだということも確認しておきたい。

─ 9章 p.270

たとえば、(ドイツにハイパーインフレをもたらすくらいの)破格の賠償金といっても、じつはイギリスやフランスにたいして、ドイツは全額を支払っておらず、20%にも届かないそうです。

むしろドイツにたいする戦勝国側の規定は、ドイツ国内の急進革命をおさえながら、潜在経済力をじっくりと高めていった側面があります。

社会主義革命による政治危機をひきおこさず、しっかりと民主制を採用したうえで、ドイツ社会の立てなおしをはかった ─ ヴェルサイユ体制には、プラスの面があったことが、近年注目されています。

近年の研究は〔略〕経済力をふくめてドイツの潜在的大国として存続させ、ドイツ国内の復古も革命もゆるさず〔略〕共和国を維持する役割を果たした点に注目している。

─ 9章 p.270

経済が向上し、世の中が安定したときに、ナチスのような過激思想をもつ政治グループが人気を集めた ─ こちらのほうが、個人的に興味があります。

今後、第二次大戦前の歴史については、問いのたてかたが変わってくるかもですね。

ニューディールの成果

世界恐慌(1929年)のアメリカでは、新たに大統領に就いたルーズベルトが「ニューディール」とよばれる救済策をほどこし、経済と社会を復興させていった ─ ニューディールについても、教科書などでは、こんなふうに説明されます。

では、いまからふりかえってみて、ルーズベルトによる政策は、どれくらいの成果&効果があったのでしょうか?

1939年の段階では、1933年にくらべて、実質GNPで「約50%」ほど回復しています。

これだけみればニューディールに成果ありとみなすことはできます。

しかし、恐慌前の1929年にくらべると、1939年の時点では、実質GNPは「約3%」ほどしか回復していません。さらに、一人あたりGNPについては「約4%」下落しています。

ここからみえるのは、恐慌被害のすさまじさと、

ニューディールは、人びとの救済にはつながったものの、経済状況を恐慌以前に状態にもどしただけ

という点です。

一人あたりでみれば、むしろニューディールは成果をあげす、生活レベルを落としています。一般に語られるほど、ニューディールによってアメリカ経済が復興し、発展したとはいえません。

このあたりは、のちのちにデータが出て、分かってくることですね。

いっぽうで、ドイツ経済のほうが恐慌から回復し、むしろ経済発展に成功しているとわかります。ご存知のとおり、ときのトップはヒトラーです。

皮肉なことに、いまでは悪役とされている人のほうが、当時の経済を回復させ、社会を復興させています。

しかしこの点にこそ、ヒトラー支持の理由がありそうです。

おわりに

以上のように、本書では第一次大戦後の欧米世界をあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。