【書評】井上智洋『人工知能と経済の未来』感想 & レビューです。

どうも、リキゾーです。

このあいだ、井上智洋『人工知能と経済の未来』を読みました。

著者の井上智洋は、経済学者で、人工知能(AI)にもくわしい専門家です。

本書は、AI と、これからの経済について述べたものです。

1、2章では AI の現状と未来について。

3章で日本経済の状況をみたあと、4章で AI 導入後の暮らしと働き方をのべていきます。ここがイチバンの読みどころ。

ラスト5章では、ベーシックインカム(BI)を検討します。

AI が働き方の変化を知りたいひとには、オススメの1冊です。

こんなはなし

要点は以下のとおり。

要点
  • AI 導入のメリット / デメリット
  • AI 導入による仕事の変化
  • BI のススメ

ひとつひとつみていきます。

AI 導入のメリット / デメリット

AI の導入で、経済にどのようなメリット / デメリットがあるんでしょうか。

メリット

メリットは経済成長率の向上です。

プロセスは以下のとおり。

AI の導入

労働力アップ

成長率アップ

経済成長率は、「資本+労働力+技術革新」から成りたっています。

AI をとりいれることで「労働力」が向上し、その結果、経済成長率ものびます。

とくに日本には朗報です。人口減少によって労働力不足が予想されているためです。

その減少分を AI がおぎなうと期待されています。

高度成長はムリとしても、底上げには貢献するはずです。

またこれまでの(単純)労働が AI に置きかわることで、ひとはより生産性の高い仕事にうつっていきます。

イノベーションもうまれ、それにともない、成長率も伸びていきます。

デメリット

いっぽうのデメリットは何でしょう?

それは「技術的失業」の問題です。

新しい技術がうまれるために、これまでの職がなくなる問題です。

歴史をふりかえると、たとえば機関車の登場で「馬車乗り」は失業しました。

「技術的失業」には2つのタイプがあります。

ひとつは「摩擦的失業」。

これは労働移動のさいにおきる失業です。

テクノロジーの進歩が早すぎるため、職をうしなうひとがふえる事態をさします。

もうひとつは「需要不足による失業」です。

供給にたいして需要が不足することでおきる失業で、働き手にたいして勤め口がない事態をさします。

プロセスはこうです。

AI が導入される

商品の生産量がアップ

供給過剰

需要不足=消費 & 投資がダウン

労働力の需要がダウン

失業率アップ

供給にたいして需要が追いつかないと失業がおこります。

消費 & 投資も下がり、景気もおちこみます。労働力需要も下がり、働き手は勤め先がみつからない事態におちいります。

以上がデメリットです。

AI が普及すると、わたしたちの仕事はどうなるんでしょうか。仕事の内容はどう変わるんでしょうか。

この点を4章で検討します。読みどころです。

産業構造の変化で、仕事のなかみがどう変化していくのでしょうか。

具体的には、工業から AI 中心の産業にかわるとき、仕事はどうかわるんでしょうか。

工業型の経済

工業では、おもな生産要素は機械設備労働力です。

そこでつくられた生産物は、消費されるいっぽう、投資として機械設備にまわされます。

こうして経済は発展していきます(マルクスのいう「資本の無限増殖」です)。

しかし長期的にみれば、生産性がずっとアップすることはありません。

そのワケは「限界生産力逓減の法則」がはたらくためです。

この法則は、土地・労働・資本を投入して得られる収穫物は、それらに合わせてふえるいっぽう、そのふえ方はだんだん減っていくという考えです。

さいごは、技術が進歩した分しか生産性はアップしません。

工業型の経済では、このような事態が想定されています。

AI 型の経済

いっぽう AI 型の経済はどうでしょうか。

AI 型の産業では、おもな生産要素は機械設備です。

工業とはちがい、労働力の要素は相対的にひくくなります。

機械はふやせばふやすほど、導入すればするほど、生産物もふえていきます。

ここが問題です。

これまでの経済では、労働者が機械設備をつかい、モノをうみだすことで成りたってきました。

しかし AI 導入後の経済では、機械が機械をつかってモノをつくるようになります。労働力=労働者は不要になります。

AI 普及後の仕事

つまり、労働という意味での仕事はなくなります。

もしそうなった場合の可能性はふたつです。

ひとつは、働くことが、レジャーとしての仕事娯楽としての仕事へとかわっていくことです。

生活手段としての仕事から、遊びとしての仕事へと変化します。

もうひとつは、生存のために労働をつづけ、機械と競争しながら働くことです。

機械が機械によってモノをうみだすようになり、過剰に生産されることで、さいごは商品価格ゼロになれば問題はありません。

たとえば、川の水や、空気なんかそうです。

こうなれば労働せずとも、最低生活をたもつことができます。

しかし商品価格はゼロになりません。

そのワケは、機械だけがモノをつくりつづけ、労働が不要になっても、土地や資源は有限だからです。

いくら機械が生産してくれるといっても、かならずコストがかかります。

そのコストをまかうために、商品には価格がつきます。

となると、モノを手にするにはおカネは必要になります。 おカネは労働でしか得ることはできません。

なので、やはり労働はさけられず、そこには機械と競争する仕事がまっています。

BI のススメ

おカネの心配をせず、遊びとしての仕事がひろまればハッピーです。

しかしそうなるとはかぎりません。

モノを得るにはおカネが必要で、なおかつ、AIの普及で労働が不要になり、おカネを得られない事態になっているかもしれません。

そこでベーシックインカム(BI)です。

労働がなく、おカネをえられない状況をさけるため、現金給付などの社会保障が必要になります。

「働くざるもの食うべからず」のモラルには反していますが、生産活動において、AI が労働に置きかわるなら、検討すべきアイデアです。

ひとこと

AI がもたらす暮らしの進歩にはワクワクするいっぽう、わたしたちの働き方への影響を考えると、ネガティブになります。

よく言われている「AI で仕事が奪われる」というはなしは絵空事ではありません。

ゆっくりだけど、かくじつにすすんでいる。

これからの仕事のあり方、どうやっておカネを得ていくについて、考えさせられる本です。

わりとマクロなはなしで、身じかに感じられないかもしれませんが、これからの未来を知るにはおもしろいです。

よければチェックしてください。

ではまたー。