【書評】カーネマン(ほか)『NOISE(ノイズ)』 ─ 内容と感想を紹介

どうも、りきぞうです。

これまで5000冊ほどビジネス書&教養本を読んできました。

今回、カーネマンの新作『NOISE』を読んだので紹介します。

ポイントは、つぎのとおり。

ポイント
・本書はベストセラー『ファスト&スロー』の著者カーネマンの最新作
・前書ではバイアス(偏り)を扱ったいっぽう、今回はノイズ(判断のばらつき)をメインに取りあげる
・バイアスは目につきやすく、すぐに誤り(エラー)を指摘できるいっぽう、ノイズは見えにくく、なかでも組織と個人の関係においては重大な損害をもたらす、と主張

個人的な評価は、こんなかんじ。

評価
分量
(4.0)
面白さ
(4.0)
おすすめ度
(4.0)

以下、目次に沿って、みていきます。

カーネマン『NOISE』の概要

出版社の紹介文は、つぎのとおり。

保険料の見積りや企業の人事評価、また医師の診断や裁判など、均一な判断を下すことが前提とされる組織において判断のばらつき(ノイズ)が生じるのはなぜか? フェアな社会を実現するために、行動経済学の第一人者たちが真に合理的な意思決定のあり方を考える

出版社から

みてわかるとおり、本書では、人間の判断におけるノイズについて扱います。

ノイズとは、会社や政治機関などの組織でみられる「判断のばらつき」のこと。

前作『ファスト&スロー』では、バイアス(判断の偏り)を中心に取り上げましたが、本書では(科学研究ではあまり重視されてこなかった)ノイズを軸に述べていくことになります。

カーネマン『NOISE』のポイント

読みどころは、ノイズの重要性を説いた箇所と、それにたいする解決策を語る部分です。

ベストセラーとなった前書の『ファスト&スロー』では、認識におけるバイアス(偏り)の問題を取りあげました。

カーネマンが提示した「システム1/システム2」は広く知られるようになりましたよね。

いっぽう本書では、バイアスの欠陥もさることながら、ノイズ(ばらつき)も、相当に問題がある、と指摘します。

ノイズとは、かんたんにいえば「正解」から外れた値(判断)のこと。ダーツでいうところの「的から外れた矢」を想像すると分かりやすいです。

もちろん、ふつうの射的と同じく「的を外す矢」があるのは当然で、人があるものごとを判断する場面においても、正解から外れた意見や見解はたくさんみられます。

たとえば、学校の生徒がふざけているとき、ある先生はどなりつけ、ある先生はスルーするなんてことは、よくありますよね。

しかし重要なのは、

ノイズがあるのにもかかわらず、その欠陥が目につかず、ばらつきのある判断を抱えたまま、会社組織や政治機関が運営される

ことです。

たとえば、患者への診察。

病院からしてみれば、医師の診察は、ある程度の経験とマニュアルがあるため、そこまでバイアスのかかった診断はなされない、と思われています。

たしかにその通りで、各医者の意見をあつめ平均をとれば、組織全体では誤った判断はしていない(ようにみえる)。

しかし、カーネマンたちが見つけたのは、組織全体では偏った判断はしていないものの、各医者の判断(診察)には、ばらつきあることでした。

それも予想していた以上に〝散らばり〟、病名の診断もバラバラだった。

しかもこれは、病院にかぎらず、会社や政治機関など「組織」と名のつくところでは広くみられる現象でした。

カーネマンたちは、この点こそが問題だと指摘します。

同じ種類の罪を犯した同じような人が全然ちがう刑を宣告されたら、たとえばひとりは懲役5年で、もうひとりは執行猶予だったら、不公平で許しがたいと誰もが思うだろう。ところが現実には、これに類することがあちこちで起きている。(上巻 p.20)

たしかに組織の視点でみれば、判断も均一で、問題なく運営されているようにみえます。けれど、患者ひとりひとりの身になってみれば、こんな恐ろしいことはない。

というのも、自分の病気が分からないなかで、ある医者は「胃ガン」であると診察し、べつの医者は「胃炎」にすぎない、と判断し、自分の病名が分からないまま時を過ごすことになるからです。

つまり、各医者の判断に、ばらつき(ノイズ)があるため、ほんとうの正解(病名)を知らないまま、生活をおくらなくてはならない。

(しかも、このばらつきのある状態を病院組織は気づいていません)

こんなふうにカーネマンたちは、前書『ファスト&スロー』で取りあげたバイアスも大事だが、組織と個人の関係でいえば、ノイズのほうがより重大な問題をかかえている、と主張するわけです。

私たちの結論はシンプルだ。「判断のあるところノイズあり」。そしてノイズは、あなたが思うよりずっと多い。(上巻 p.50)

カーネマン『NOISE』の感想

前半(上巻)では、こんなノイズの特徴と種類を述べるいっぽう、後半(下巻)ではノイズの原因と対策を語ります。

対策にかんしては判断における衛生管理(ハイジーン)という解決策を提案します。

これは(統計的・確率的に発生する)ノイズにたいしては、できるかぎりノイズ(判断のばらつき)が起こらないよう、前もって防衛する、ということ。

これが大切だとします。

たとえば、今回の新型コロナウィルスのように、被害のリスクについて専門家たちが意見を述べた場合。

このときも、

「専門家といえども、かれらの判断には、ばらつきがある」

と、前もって想定しておき、そのうえで被害リスクを減らせような対策を、ひとつひとつ実施する。

たとえ、コロナへの手洗いの効果がはっきりしないにしても「専門家の判断には、ノイズがある」と頭に入れておき、外から帰ってきたら手を洗うようにする。

カーネマンたちは、人間の判断にも、コロナのような未知のウィルスにも、衛生管理という解決策を提案するわけです。

手洗いは予防的衛生対策のひとつだが、手を洗うと、どのバイ菌を防げるのかよく分かっていない。分かっているのは、とにかくいろいろなバイ菌に効果的だということである。〔中略〕同様に判断ハイジーンも、どのエラーの防止に役立つかは、はっきりしないが、とりあえずノイズを減らすことのできるテクニックだと考えてほしい。(下巻 p.71)

こんなふうにノイズへの対策も参考になりますが、個人的には、解決策の箇所よりも、ノイズの特徴や種類を述べた上巻のほうが刺激的でした。

「バイアス」ばかりをあつかった『ファスト&スロー』との対比もはっきり出ていて、「ノイズもまた問題なんだな」と、目からウロコが落ちる想いがしました。

「なぜコロナウィルスにたいして、各国の対策が、こんなにもバラバラなのか」といった疑問にも、答えてくれる本であるともいえます。

たとえ「専門家」と称する人でも、人間の判断がいかにデタラメか ─ それを知りたい人には、おすすめの1冊です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。