【書評】松谷明彦『人口減少社会の新しい公式』感想&レビューです。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

言わずともわかるとおり、いまの日本は、高齢化&少子化に悩んでいます。

2050年には、1億人を割りこみ、高齢化率は「39.6%」になると予想されています。

参考:我が国における総人口の長期的推移(総務省)

待ったなしの状態です。

対策をたてないと、社会の歪みが生じる可能性が高いです。

あらためて、ひとりひとりが人口減少の問題に向きあう必要がありそうです。

そんなとき、つぎの本が目につきました。

著者は、日本の人口動態にかんする研究の第一人者です。

この本では、 「日本の人口減少」について、正面から述べています。

体系的に記されているため、いまの問題を整理するには、もってこいの1冊です。

人口減少について、メディアなどで、盛んに議論されています。

しかし、不安をあおる内容ばかりで、あまり参考になりません。

この本をつうじて、もう一度、冷静に観察するほうが良いと思います。

『人口減少社会の新しい公式』の概要

第1章 変化は一挙に ─ 迫る極大値後の世界
第2章 拡大から縮小へ ─ 経営環境の激変
第3章 地方が豊かに ─ 地域格差の縮小
第4章 小さな政府 ─ 公共サービスの見直し
第5章 豊かな社会 ─ 全体より個人
第6章 「人口減少経済」への羅針盤

1章で、人口減少の概要について。データから大まかな動向をみていきます。

2章で、人口減少社会における経営のあり方について。

3章で、地方自治体の状況。

4章で、経済政策など、中央政府による対策について。

5章で、人口減少社会での、個人の生き方&働き方についてのべます。

6章がまとめです。

『人口減少社会の新しい公式』の詳細

人口減少社会では、政府・企業・個人が、あらゆる面で規模を縮小させる必要があります

これが本書全体の主張です。

そのうえで、個人的には、つぎの2点が気になりました。

  1. ① しくみを変える理由
  2. ② 人口減少への対策

以下、引用をあげつつ、ひとつひとつみていきます。

① しくみを変える理由

そもそもなぜ、人口減少をむかえるにあたって、これまでのしくみを変えなくてはいけないんでしょうか。

理由は2つです。

理由(1):大量の労働者をうしなうから

これまでは、大量の労働者(労働力)がいたので、成長してきました。

この条件を前提に、経済のしくみがつくられてきました。

人口減少で、この条件がなくなります。

大量生産・大量消費以外のシステムをつくりだす必要があります。

しかし現状をみると、これまでのモデルを保持しているようにみえます。

たとえば外国人労働者問題。

これは労働人口の減少に対処するため、賃金の安い人材を受けいれるのがねらいです。

これでは大量生産型のビジネスモデルを維持するだけです。

急成長している新興国と、おなじ土俵に立つことになります。

結果は目にみえていて、低価格競争に負けてしまいます。

めざすべきは、世界から優秀な人材を呼びこみ、開発力を高めることです。それによりほかの国より優位にたてます。

そこでカギとなるのが、企業の国際化です。

生産拠点を海外にうつすのではなく、優秀な人材を呼びこみ、日本で技術向上につとめてもらうのです。

その結果、比較優位性の高い製品を、海外で売りだせるようになります。

外国人や外国企業が日本に進出することこそが真の国際化であり、少なくともいまの日本経済に必要とされている国際化とはそれであることを知るべきだろう。(p.10)

理由(2):公共サービスを維持できないから

人口減少のもとで、大量生産型の成長モデルでやっていこうとすると、公共サービスが破たんするためです。

うえのとおり、労働人口は減っていきます。

たとえ技術革新と効率化で、生産性をアップさせても、一人あたりの所得は一定 or やや上昇するくらいです。

となれば、行政サービスを縮小し、大量生産型の経済をシフトする必要があります。

どちらもやらないと、財政サービスがおろそかになるか、さいあく破たんすることになります。

まとめると、人口減少と高齢化にともない、

・これまで成長を支えてきた労働者が減る
・コストアップで、公共サービスを維持できない

この2つの理由から、すでにある制度やしくみを変更する必要があるわけです。

② 人口減少への対策

政府、企業、個人それぞれすべき対策はありますが、とくにだいじなのは企業経営のスリム化です。

具体的には、生産設備を削減することです。

というのも、人口が減れば、需要も減っていくからです。

科学的な設備投資計画をしっかり立てて、それに沿って生産規模を調整していく必要があります。減少する需要と労働人口を見極めながら設備投資をおこなっていくのです。

とはいえどれだけの売り上げが見込めるか、働き手を何人確保できるかについては予測が立てにくい。

そこで、内部留保を充実し、見通しと現実のズレというリスク対処するためのバッファーとして確保しておく、設備投資資金の調達法を倒産のリスクの高い銀行から借り入れから、株式への転換するなどの対策があります。

給料を抑えるのはNG

ただし、企業のスリム化といっても、賃金の抑制はタブーです。

目さきの利益ほしさに、賃金をおさえても、 経済全体でみた場合、需要がダウンするからです。

賃金を抑制し需要が冷えこむと、設備投資計画での需要よりも低くなる危険性があります。

すると生産能力を落とすために設備投資を縮小 or 廃棄するコストがかかり、売り上げの落ちこみ、さいごは倒産につながります。

人口減少のもとでは、企業利益は会社よりも従業員にまわす、設備にまわすより、給料にまわすほうが賢明です。

需要がさがれば、設備を縮小するしかありません。

となると、設備投資のために企業はあえて内部留保を高める必要性がなくなるからです。

資金を貯め込んでいても運用の手立てがない、銀行もお金をもっているのに貸さない──そんな事態におちいります。

賃金を抑えることで経済全体の規模が縮小してしまうのです。

まとめると、企業は、投資にたいしては慎重におこない、できるだけ最小限度(ミニマム)におさえるべきです。

いっぽうで、給料や賃金の抑制はタブーで、国内の需要(内需)を高めるには、報酬をあげて、経済全体をうまくまわす必要があります。

おわりに

出版から10年以上たっていますが、いまおきている問題を言いあてているようで、おそろしいほどです。

とくに、外国人労働者の受け入れ問題や、貸し出し先がなく、銀行が低金利におちいる指摘は、ピタリそのままです。

これから日本は、本格的に人口減少がすすんでいきます。

その問題を把握し、予防するためにも、読んでおきたい一冊です。

ぜひチェックしてみてください。

ではまた〜。