【書評】『世界の歴史7 宋とユーラシア』

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうはつぎの本を紹介します。

『世界の歴史7 宋とユーラシア』概要

まずは本書全体の目次から。こんなかんじです。

第1部 宋と高麗
1 揺れ動く東アジア
2 新時代の幕開け
3 王安石改革へのまなざし
4 花開く都市社会
5 新たな大地で ─ 北宋から南宋へ
6 周辺諸国の変動と中国文明の変容

第2部 中央ユーラシアのエネルギー
1 中央ユーラシアの人びと
2 テュルク−ウイグルの社会
3 モンゴル高原の周縁から
4 モンゴルの足音とともに
5 現代からの視点

本書のテーマは、宋王朝とユーラシアの遊牧民諸国 ─ 。

年代としては、唐王朝が滅亡した907年から、モンゴル帝国がうまれる直前の1200年ごろまでをあつかいます。

第1部では、宋時代の状況を描きます。

政治史はほんのわずかで、人びとのくらしを考察する社会史が中心です。

王安石の制度改革、秦檜 vs 岳飛の権力争いなどは、ほとんどふれていません。

教科書の内容を期待すると、かたすかしをくらうかもです。

第2部では、中央ユーラシアを舞台に、遊牧民部族の派遣争いを描きます。

・キタイ
・金
・ウイグル
・チベット

など、この時代に勢力をのばした遊牧国家の内実を、ていねいに掘りさげていきます。

教科書などでは、さらっとしかふれないパートなので、かなり勉強になります。

「書き手の裁量にまかせる」というのが、このシリーズの編集方針です。

自由度の高さは認めますが、この7巻にかぎっていえば、あまりに〝文体のトーン〟が異なります。読み手としては、慣れるのに苦労します。

とくに第1部の「宋」については、前提知識がないと、なにがなにやら、まったく理解できない。あまりにこまかく、ニッチな話題がつづくからです。くわえて論理展開も乱れているので、内容がアタマに入ってきません。

1部については、宋王朝の背景を知ってから、読みはじめるのが無難です。知らないと投げ出します。

2部については、遊牧民の特性をふまえたうえで、各国家のなかみを、順々にたどっていきます。

こちらは読みやすく、初めての方にも、もってこいです。読んでいて、楽しいです。

『世界の歴史7 宋とユーラシア』詳細


以下、気になったトコをあげていきます。

つぎの2点です。

  • 南宋の経済発展
  • ユニークで、したたかなウイグル

以下、くわしくみていきます。

南宋の経済発展

「宋の時代では、経済発展がすすんだ」といわれます。

その要因として、揚子江の下流域(=江南)の開発があげられます。雨がよく降り、農業生産に適している ─ 土地を有効活用して、食糧生産を増やし、経済を拡大させたのだ、と。

けれど、宋の発展は、生産性の向上だけでは説明できません。

発展の要因は、「流通の改善」にありました。なかでも大きかったのは、運河の改修です。隋の煬帝によってつくられた運河ですが、宋の時代、ながく利用されていたこともあり、ほころびが出てきました。

そこで王朝は、大規模な改修工事にのりだします。

たんに元に戻すだけではありません。より商船が進みやすいように、最新の水門技術をほどこす ─ これにより、流通量を高め、モノ・ヒト・カネの流れをうながします。

経済発展のうらには、生産力だけでなく、流通量の増大がありました。

これまで江南の稔りを、農業的な成果と、その生産力の高さに求めすぎた。〔略〕だがじつは、宋代江南の経済力の進展は、〔略〕資本投下や地域改造も、事業として大きな意味をもった。たとえば、運河の改造もそうだ。(p.206)5章

筆者の仮説とはいえ、かなりおもしろい視点かなぁと思います。

ユニークで、したたかなウイグル

遊牧民というと、農業で生計をたてる国家に侵入&強奪し、富をたくわえる、といったイメージがあります。「匈奴」「モンゴル帝国」が典型ですね。

けれど、同じ遊牧国家でも、ウイグルは違います。

オアシス地域をおさめ、半農業生活を営んでいたこともあり、ウイグルの人びとは、交易ネットワークをおさえるやり方で、国を豊かにします。

そのために、どの国とつながり、どの国と〝取引〟すれば、トクになるか ─ この一点に軸足をおいていました。ですので、思想や宗教が異なっても、利害が一致すれば、すぐさま手をむすびます。

それまでの遊牧民とは、あきらかにタイプが異なりました。

ウイグル側からすれば、朝貢貿易のうまみは大きかった。中国の農業生産力と、文明をベースとした文物・物産を入手できるからである。〔略〕中国王朝の権威をかりて、それぞれの領域における商業掌握をしめすメリットも付随していた。中華側〔略〕は、やってくる貿易相手を華夷の秩序内にくみこんだと理解する。(p.375)8章

取引相手だった宋王朝は、ウイグルからの朝貢(=モノの差し出し)によって、「自分たちは、上の立場にいるんだ」と思っていました。

しかし、朝貢とひきかえに、宋からお返しをもらえるウイグルからすれば、たんにトクをするから、頭をさげていたにすぎません。

メンツを重んじる中華/実利をとるウイグル ─ どちらが出玉にとっていたかは、一目瞭然ですね。このあたりに、ウイグルのおもしろさがあります。

ちなみに、ほかの国とのカンケーも、終始こんなかんじです。

損とわかれば、手をきり、かつて敵国だった国とも手をむすびます。「遼」から「西夏」、「西夏」から「金国」へと取引相手を状況にあわせて変えていきます。

交易ネットワークをおさえることで国家を維持するには、これくらいのしたたさは必要なんでしょうね。

のちにウイグルは、ユーラシア一帯をおさめるモンゴル帝国にたいしては、ムダな争いはせずに、さっさと恭順をしめします。

そればかりではなく、帝国の〝金庫番〟を担う役割さえ果たします。

あの凶暴なモンゴル帝国のふところに入るんですから、その交渉力たるや、すさまじいものがあります。

おわりに

本書は、「詳しさ」と「分かりやすさ」が、ほどよくマッチしています。

世界史学習にはぴったりなので、ぜひ手にとってみてください。