【書評】『世界の歴史 16 ルネサンスと地中海』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 16 ルネサンスと地中海』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第16巻です。

『世界の歴史 16 ルネサンスと地中海』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

1 新しい時代への眼
2 ルネサンスの春
3 イタリア、地中海の焦点
4 見えるもの、見えないもの ─ ルネサンス精神の夏
5 くらしのなかのルネサンス
6 ルネサンス、実りの秋
7 かなたへの旅
8 空間と時間をこえて
終章 日本からの発信

本書のテーマは、西洋ルネサンス ─ 。

ダンテ&ポッカチオが活躍する時期から、セルバンテスが『ドン・キホーテ』を執筆したころまでを描きます。

年代でいえば、1300年代〜1600年くらいまで。

政治史・文化史・社会史をバランスよくあつかっているため、はじめてルネサンスを学ぶ人には、おすすめです。

たんに出来事をたどるだけでなく、ダヴィンチ&メディチ家&ローマ教皇など、「個人」にスポットを当てているのも、うれしいトコ。これにより、ルネサンス時代の雰囲気を生々しく理解できます。

イタリアが舞台とあって、ひとくせもふたくせもある面々が、ぞくぞく登場します。また、ルネサンスのほか、同じ時期におきた大航海時代や宗教改革についてもふれています。

イタリア以外の出来事を示すことで、ルネサンス時代を〝立体的に〟把握できるようになります。

全体として、かなり構成に気をくばった内容になっています。

『世界の歴史 16 ルネサンスと地中海』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • ルネサンス運動のきっかけ
  • 大航海時代の担い手はイタリア商人

それぞれ、みていきます。

ルネサンス運動のきっかけ

ローマ教会の権威が衰えるのをきっかけに、ルネサンス芸術が盛りあがります。

教会の偽善に対抗し、新たな人間像を示したのが、その特徴です。

・ダヴィンチ
・ラファエロ
・ミケランジェロ

などなど、このとき活躍した芸術家をあげれば、キリがありません。

さいしょイタリアの都市国家でおきたルネサンス運動ですが、じょじょにヨーロッパ各地にひろがっていきます。

おもしろいのは、影響をあたえたきっかけ ─ 。それは戦争でした。

ルネサンス芸術が花ひらいたローマの都に、パルスブルク家カール5世が、ドイツ皇帝として侵攻してきます。

それまでイタリアの各都市は、キツネのような狡猾さで敵国の軍事侵攻を回避してきまきた。けれど〝ずるがしこさ〟は通用せず、ローマの都をめちゃくちゃに荒らされます。

「ローマの掠奪」です。(1527年)

これによりルネサンス運動にブレーキがかかります。

パトロン&芸術家にとっては悲劇でしたが、攻めた側からすれば、略奪品以上に、大きな成果がありました。それはルネサンス運動をもたらした、イタリアの都市国家制度です。

その特徴は、個人の独裁のもと、かれらのまわりに側近がひかえ、ひとつの宮廷に身をささげる制度です。

そこには「契約」のようなドライな関係はなく、「温故」「温情」といった、生あたたかいつながりが支配しています。

〔略〕特色はといえば、独裁者のまわりに、親密な連携をたもつ側近がひかえていることである。貴族たちは、自分の領地をかまえるかたわら、もっぱら宮廷に伺候して、君主とねんごろな関係をむすぶ。制度や契約といった冷静なつながりよりは、宮廷のもたらす人間模様の温みによって政治がはこばれる。

─ 6章 p.294

本書ではこれを「ルネサンス国家」とよんでいます。

たしかに、あとの時代をみると、たったひとりの君主のまわりに、軍人や宮廷官僚が奉仕して、国家全体を盛りたてようとするしくみが、ひろまります。

・神聖ローマ帝国(フェリペ2世)
・イングランド(エリザベス1世)
・フランス(ルイ13世)

などは、その典型です。

ヨーロッパ諸国は、ルネサンス時代のイタリア都市国家をみならっているやようです。

普及のきっかけは「戦争」にあり、のちの影響をみると、「ローマの掠奪」は、いち紛争以上に、大きな意味のある事件だったのかもしれません。

芸術&国家制度の両面で、ルネサンス運動を、ヨーロッパ各地にひろめたわけですから。

大航海時代の担い手はイタリア商人

ヨーロッパの人びとがアメリカ大陸を発見したのをきっかけに、交易の中心地は、地中海から大西洋に移った ─ 。

そのために、イタリア商人たちは、じょじょに衰退していった ─ このような見方が、教科書や概説書では一般的です。

しかし本書では、この見解に疑問をなげかけます。

理由はかんたんで、大西洋交易のおもな担い手が、イタリア商人だったからです。

じっさい、大西洋航海に乗りだした有名人をみると、そのほとんどが、イタリアの都市国家出身とわかります。

・コロンブス → ジェノバ
・ヴェスプッチ → フィレンチェ

などなど。

それもそのはずで、地中海交易で大きな利益をあげていたかれらは、もっともヨーロッパで海洋技術&商業スキルに、たけていました。

新たなビジネスチャンスが生まれたと分かれば、それまでの経験を活かし、利益をねらうのは、当然です。

15世紀末にはじまる大航海にあっては、むしろイタリア出身の航海者が、ずぬけて探検の素養をやしなっている。無理もないことだろう。イタリア人は、地中海で航海技術の習練をうけ、航路選択から操船技術にいたるまで、熟達の域に達していた。

─ 7章 p.393

さらにいえば、地中海交易そのものも、衰退したわけではありません。

たしかにオスマン帝国の侵攻をうけて、交易ネットワークは、一時的に途絶えました。けれど、帝国の統治が安定してからは、ふたたび地中海交易はさかんになります。

そもそも、オスマン帝国は交易に熱心でした。軍事同盟をむすんだフランスとは、国内に特区まで設けて、ビジネスをおこなっています。

そこにイタリア商人が〝食い込み〟、取引の仲介役を担っていたのは、言うまでもありません。

新大陸の発見のより、地中海から大西洋へ、交易の軸足が動いたというのは、ものごとの表面しかみていません。

じっさいは、これまでの商業慣習は急激に変化することはなく、同時並行で拡大していった ─ このあたりは、最近の研究をふまえた本書からではないと、わからない事実です。

その意味でも、一読の価値がある本です。

おわりに

以上のように、本書ではルネサンスと大航海時代をあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。