【書評】井上幸治『世界の歴史 12 ─ ブルジョワの世紀』(中公・旧版)感想&レビューです。

どうも、りきぞうです。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

働くなかで思うのは、自分の市場価値をアップするには「教養」が大切だということ。

「できるなぁ」
「発想がすごいなぁ」

と、思う人は、キホン、教養を身につけています。

なかでも、重要なのは「世界史」です。

ここ数年、ビジネスマンの基礎知識として「世界史」が注目をあつめています。

ネット時代をむかえ、グローバル化が加速しているからです。

外国との交流が増えたことで、日本だけではなく、地球全体の歴史を知る必要が出てきました。

とはいえ、世界史は範囲も広く、どこから手をつければ良いか、わからないですよね。

分量も多くて、なんだかムズかしそう。。

そこでおすすめしたいのが、大手出版社から出ている「シリーズ本」を読むこと。

なかでも、こちらのシリーズは、さいしょに手にとってほしいです。

中央公論社が出した「世界の歴史」シリーズで「旧版」にあたるものです。

中公は、2000年代に、あらたに「世界の歴史」シリーズを刊行しました。

こちらを「新版」とよび、以前のシリーズは「旧版」といわれます。

じつは〝読みやすさ〟でいえば、「旧版」のほうがすぐれています。

「新版」のほうは、どちらかといえば「研究者」「玄人」むけ。

世界史の流れを理解・把握するには適していません。

絶版なのが難点ですが、古本屋 or ネット通販をつかってゲットしてほしいと思います。

きょうは、第12巻にあたる

を紹介したいと思います。

「12」では、フランス革命以後の世界をあつかいます。

年代としては、1700年〜1800年にあたります。

井上幸治『世界の歴史 12 ─ ブルジョワの世紀』(中公・旧版)の概要

まずは目次から。

こんなかんじです。(※ こちらの都合で、番号をふりました。)

01 ウィーンの饗宴
02 失われた時をもとめて
03 祖国の歌
04 2つの半島で
05 ヘラスの子ら
06 ジェントルマン
07 栄光の3日間
08 若きヨーロッパ(1)
09 若きヨーロッパ(2)
10 ブルジョワの青春
11 ガリアのおんどり
12 革命の力学
13 リソルジメント
14 セヴァストポリ
15 帝国
16 ゆらぐ自由帝政
17 偉大な闘争

01〜11で、大陸ヨーロッパ世界をあつかいます。

政治だけでなく、民衆・社会のようすもくわしくみています。

11で、革命運動について。

14で、ロシア。

15〜17で、フランス革命後の帝政についてみていきます。

全体として、文体もカンケツで、読みやすい。

内容については、政治・経済・文化 ─ ジャンルをバランスよくあつかっています。

中屋健一『世界の歴史 11 ─ 新大陸と太平洋』(中公・旧版)の詳細

タイトルは「ブルジョアの世紀」のなっています。

けれどおもに、各国にたいするフランス革命の影響をあつかっています。

以外、気になった国別にみていきます。

ポイントは、つぎのとおり。

  • ポーランド ─ ロシア支配下のまま
  • イギリス ─ さらなる発展
  • フランス ─ ナポレオン3世のクーデター

ひとつひとつ、のべていきます。

ポーランド ─ ロシア支配下のまま

フランス革命では、「自由・平等・友愛」の理念がかかげられました。

しぜん、王政をとる国では、民主主義の動きが加速します。

しかし、わたしたちがイメージするほど、すんなり近代国家へ様がわりはしていません。

たいていの国は、国王・皇帝の地位は、そのままです。

わかりやすいのがポーランドです。

当時のポーランドは、ロシア帝国がおさえてしました。

当然、民主主義の実現にむけて、人びとは立ちあがります。

けれどあっけなく、ロシア軍に鎮圧されます。

古い型の地主貴族は、教会・ロシア権力にこびへつらった。1825年、ニコライは、ポーランド人をすっかり飼いならしたと信じていた。(p.243)

このときに、ポーランド出身の音楽家「ショパン」が、『革命のエチュード』を作曲しています。

さらに悲惨なのは、各国の国王・宰相が開いた「ウィーン会議」で、はじめて国家として承認されたことです。

そのため「会議国家」とよばれます。

ポーランドは、ウィーン会議がつくりあげたため、会議王国とよばれた。ウィーン会議は、ポーランド国家を承認しながら、ポーランド民族の統一を否定したところに矛盾をもっていた。(p.243)

かれらの〝お墨付き〟なくして、国としても認められなかったのです。

これだけでも民主主義の実現には、ほど遠いとわかります。

フランス革命によって、民主政治が確立したなんていわれます。

けれど突然、達成されたわけではありません。

段階をおいて、じょじょに普及していきました。

イギリス ─ さらなる発展

いっぽうイギリスは、フランス革命の影響なしに、政治運営がスムーズになされます。

というのも、フランスにさきがけてて、民主政治が、ほどほどに浸透していたからです。

とはいえ、まったく影響を受けなかったわけではありません。

この時期、新興産業家&労働者階級の台頭しました。

地主階層は、2つの階層と対立することになります。

それにともない、政党の構図も変化 ─ 。

「ホイッグ」が中間階層と、「トーリー」が地主階層とむすびつきます。

以降、

・ホイッグ → 自由派
・トーリー → 保守派

となります。

フランス革命の影響で、政党の支持基盤に変化がおこりました。

〔……〕社会は大きく変わり、地主階級は新興産業家・労働者と対抗する段階になり、「ホイッグ」は中間階級とむすびついた。(p.298)

さらに、つぎの「7月革命」の影響で、労働運動やブルジョワ急進派の勢力が一気に加速 ─ 。

ますます、ホイッグ / トーリーの政党色は、つよくなっていきます。

〔……〕労働運動やブルジョワ急進派の進出もあり、政党の再編成が進行していた。ホイッグの保守党はトーリー党へ、トーリーの進歩派はホイッグ党に合流し、ここに旧来の政治関係は変わり、地主貴族の保守派と、産業家や中間階級の自由派の対立となった。(p.298)

イギリス経済の発展

政治が安定するため、経済は大いに発展します。

すでに工業化を進めていましたが、フランス革命以降、さらにすすんでいきます。

・繊維
・金属

などの産業が飛躍し、生産高も増大 ─ 。

輸出高も増え、この時期に、「世界の工場」としての地位を確立します。

イギリスは、産業革命の先進国として、この時期に世界の工場となり、世界市場において支配的な位置を確立した。マンチェスターを代表とする繊維工業のほかに、バーミンガムを中心とする金属産業が成長し、機械工業は他国への輸出のために生産を増大させた。イギリスの富の蓄積は、1845年なら30年間に2倍になったのではないかといわれている。(p.441)

くわえて、ヨーロッパ大陸がゴタゴタしているとき、中東&中国では、貿易の拠点をちゃくちゃくと築いていきます。

フランス・ドイツ・イタリアにくらべて、軍事費に余裕があるからです。

・中国 → アヘン戦争
・インド → セポイの反乱を鎮圧
・シンガポール → 占領

といったかんじで「大英帝国」へいたる道を、着実に歩んでいきます。

中国ではアヘン戦争・アロー戦争をおこし、1860年にはフランス軍とともに侵入して、北京条約をむすび、九竜半島の一部を得たほか、11港をひらかせた。インドの経営は確立し、1856年には、本国政府の直接支配下においたが、57年にはセポイの反乱によって代表される民族運動が起こった。そのほかシンガポールを占領し、68年にはマライ半島を支配し、ビルマにも発展しようとした。やがて幕末の日本にもおとずれた。(p.442)

さらに経済力のない国々に、借金(借款)を貸しつけ、植民地経営をおこなっていきます。

具体的な国は、以下のとおり。

・エジプト
・モロッコ
・トルコ
・ケープ植民地
・カナダ
・オーストラリア

この状況をみた、当時の経済学者は、こうのべています。

「アメリカとロシアの平野は、わが国の島であるし、シカゴ・オデッサの穀物、カナダ・北欧の森、オーストラリアの牧場、カルフォルニア・オーストラリアの金などは、すべてイギリスに流れこんでいる」(経済学者・ジェボンズ)(p.442)

長い目でみたとき、フランス革命の恩恵をうけたのは、イギリスだといえます。

フランス ─ ナポレオン3世のクーデター

いっぽう革命がおきたフランスでは、そのまますんなり「民主主義」「近代国家」へと〝生まれ変わる〟ことはありません。

[共和政 → 王政]をくりかえし、政治体制がコロコロ変わります。

そこから出てきたのが、ナポレオン3世 ─ 。

ナポレオンの甥っ子ですね。

かれは、「自由・平等・友愛」の理念をかかげながら、フランス市民の期待をあつめます。

てっきり「近代国家」を確立のかと思いきや、ふたたび皇帝の座につきます。

しかもさしたる暴動もないまま、すんなりおさまります。

このあたり、フランス民衆の感覚は不思議ですね。

なぜ支持したんでしょう。

本書では、クーデター直前の、ナポレオン3世の動きを、物語風に記しています。

こんなかんじ。

12月1日、大統領邸「エリゼ宮」は、恒例のレセプションであった。主人はいつものようにサロンを歩きまわり、高官・外交官・将軍やその夫人たちと気軽につきあっていた。相当有名になっていた、あのひげをひねりながら軽口をたたくすがたは、べつに深いたくらみなどをもつ人間とは見えなかった。

「大佐、動揺をみせるな。今晩だぞ。明朝、街で非常呼集をかけさせない約束ができるかね。」

大佐は、ドラムの皮をやぶらせておくと、答える。

「よろしい、朝6時、参謀本部にこい」

〔……〕ジョルジョ=サンドは、この夜、娘と観劇の帰途、エリゼ宮のあかりが消えているのを見つめてつぶやいた。

「まだ、あしたでは、なさそうだわ」(p.372)

個人的には、ナポレオン3世の人がら興味があります。

クーデターの成功はいいとして、なぜすんなり皇帝として就任できたのか。

かれのキャラクターによるトコが、多いような気がします。

ぜひ伝記を読みたいですね。

おわりに

旧版ながら、この「世界の歴史」シリーズは、かなり読みやすく、おすすめです。

ムズかしい用語を、ほとんどつかわず、一般の人がみても、わかるように書かれています。

なにより、知的好奇心をうながすように、歴史をたどるため、読んでいて飽きません。

ざっくり、かつ、ある程度、くわしく世界史の流れを知りたい人には、もってこいの1冊です。

よければチェックしてみてください。

ではまた〜。