シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』感想&レビューです。

どうも、コント作家のりきぞうです。

きょうも、コント作品をレビューしていきます。

取りあげるのは、シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』。

喜劇のなかでは、後期の作品になります。

シェイクスピア劇では、貴族の人たちが主人公になりますが、この作品の主役は、市民階級の人たち。

その意味で、めずらしい作品とされています。

以下、ストーリーの大枠をみたあと、笑いのポイントをあげていきます。

ちなみに、小田島訳の Kindle 版でよみました。

以下、引用のページ番号は、うえのの文献によります。

ストーリーの大まかな流れ

人物

フォールスタッフ……悪徳の騎士
フォード夫人(アリス)
ページ夫人(マーガレット)
フォード……アリスの夫
アン・ページ……ページの娘
フェントン……アン・ページの恋人

場所

ウィンザー&その近郊

あらすじ

悪徳の騎士「フォールスタッフ」。

金にこまった彼は、財産もちの女房「フォード夫人」「ページ夫人」と恋仲になり、いくらせしめようと思いつく。

さっそくラブレターを書き、ふたりに送りつける。

とはいえ、アタマのきれるフォード夫人。

すぐさまフォールスタッフの意図を見ぬく。

バカにされたおかえしに、ページ夫人と協力して、誘いにのったフリをしつつ、ワナをしかけることに。

家に夫がいないときに、フォールスタッフを誘いだし、いざコトに及ぼうとしたときに、「とつぜん夫が帰ってきた」とウソをつく。

洗濯カゴにはいり、汚れた服でカラダをかくし、家からこっそり抜けだすべきと説得。

そしてそのまま召し使いたちに、洗濯ものといっしょにテムズ川に投げ入れる。

こんな計画をたてる。

いっぽう、夫「フォード」は、フォールスタッフが妻を寝とりくる計画をきいてしまう。

変装したフォードは、フォールスタッフに近づき、金と引き換えに、寝とりにむかう具体的な時間を聞きだす。

決行のとき。

おもわくどおり、フォールスタッフは洗濯カゴにつめられ、クサくてキタない服といっしょにテムズ川に投げ込まれる。

フォールスタッフを追いかけ、町の仲間をつれて、妻の浮気現場をおさえようとしたフォードも、タイミングをはずし、もぬけの殻になった部屋で立ちつくす。

妻にあらぬ疑いをかけた夫は、まわりからけちょんけちょんに非難させる。

ハメられたフォールスタッフ。しかしふたたびフォード夫人にダマされ、いそいそと家にむかうが……。

ひとこと

フォールスタッフの悪事をさかてにとり、機転のきいた妻たちがイタズラをくりかえす、ドタバタ劇です。

このストーリーのほかに、父のページのむすめの恋愛ばなしも並行しますが、それはサブプロットってかんじ。

主役はフォード夫人、ページ夫人のふたり。

彼女たちのワナに、悪漢のフォールスタッフがダマされるようすを楽しめるかどうかで、この作品のおもしろさが決まります。

「あらすじ」のはなしのあと、さらにフォールスタッフはもう2回ダマされますが、そのくりかえしが笑いを増幅させます。

また勝手にカン違いする、夫のフォードも魅力的。

「コキュ」(=寝とられ亭主)になり下がったとわかったときの独白シーンは、そうとう笑わせてくれます。

フォード 不実な妻をもつは地獄、とはよく言った。おれのベッドは汚され、おれの金庫は荒らされ、おれの名誉はむしばまれ、そういうひどい恥辱を受けた上に、さらに忌まわしい肩書きまでつけられねばならぬ、それも、そういう恥辱を加える当の本人によってだ 。肩書き! 呼び名! アメーモンと呼ばれるほうがまだいい、ルーシファ ーでもいい、バーバスンでも。みんな悪魔の呼び名、地獄に住むものの名前だ。だが寝とられ亭主とは! おめでたい亭主とは! 寝とられ亭主! 悪魔だってこんな名前はもってない。〔略〕 女房のやつ、目を離せばいろいろ企み、思案をめぐらし、計画を練ることになる、そして心のなかで実行できそうだと考えたことは心がつぶれても実行したくなるものだ。ああ、おれの疑い深さを神に感謝しなければな!〔略〕ええい、畜生、畜生、畜生、寝とられ亭主、寝とられ亭主、寝とられ亭主!

(no.757〜)

さらに、もぬけの殻にぼう然とするフォードに、まわりが非難するやり取りのセリフも good です。

ページ だれもいないようだな。

シャロー だれがなんと言おうと、これはよくないですぞ、フォードさん、あなたの恥ですぞ。

エヴァンズ フォードさん、あなたはお祈りをすなければなりません、ご自分の心の妄想にまどわされないように。これは嫉妬的行為です。

フォード どうしたんだ、ここにやつがおらんとは。

ページ ここにもどこにもいないだろうよ、きみの頭のなかにだけいるのだから。

(no.1435〜)

ちなみに、シェイクスピア劇のモチーフに、「みかけ/なかみ」という対立軸があります。

「どこにもいない、いるのはきみの頭のなかだけ」というセリフは、そのテーマをよくあらわしていますよね。

カンタンな言いまわしのなかにも、哲学的なふくみをもたせるのが、シェイクスピアの魅力です。

笑いのポイント

笑いのポイントをみていきます。

コントや喜劇で大事なのは、キャラクターとプロット。

この作品ではプロットに注目してみます。

コントのプロットはとてもシンプル。

[設定 → 展開 → オチ]がキホンのながれ。

コントの書き方 ─ プロットの構成について

なかでも「展開」が、作品の良し悪しを決めるんだけど、これにも「型」があります。

パターンは「反転」「逆転」「交錯」の3つです。

コントの書き方 ─ プロットの展開について

ストーリーを整理して、パターンをあてはめてみてると、構図は「交錯」だとわかります。

「交錯」では、1人の人物が、真相を隠したり、ワナをしかける。それにより、カン違いする人物が、スジ違いのセリフを吐いたり、行動に出たりする。

そのようすが笑いを引き起こす。

この作品でも、フォールスタッフの悪事を利用し、あえて誘いにのるフォード夫人がワナをしかけ、彼を窮地におとしいれる。

また妻のフリを本気とカン違いするフォードが右往左往する。

図にすると、こんな感じ。

構図 ─ 逆転
フォード夫人 = フォールスタッフと浮気

・誘われるフォールスタッフ
・ワナにハマり、テムズ川へ
・うたがう夫、浮気現場をおさえようとする
・もぬけの殻で、まわりから非難される

フォード夫人 ≠ フォールスタッフと浮気

展開パターンとして、「交錯」のほかに「反復」があります。

ここでは、この手法もうまく利用しています。

まとめ

こんなふうに、プロットに注目してみていくと、よりいっそうコントを楽しめます。自分でつくるときにも役立ちます。

ほかの作品でも、こんな視点に立って作品で観ています。ちがう記事ものぞいてみてください。

ではまた。

よきコントライフを〜。