【書評】『世界の歴史8 イスラーム世界の興隆』

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうはつぎの本を紹介します。

『世界の歴史8 イスラーム世界の興隆』概要

まずは本書全体の目次から。こんなかんじです。

1 世界史を変えるイスラーム
2 イスラームの誕生 ─ メッカ
3 ムハンマドの後継者たち ─ メディナ
4 分裂と統一 ─ ダマスクス
5 繁栄の二世紀 ─ バグダード
6 変革と激動の時代 ─ バグダードからカイロへ
7 西方イスラーム世界の輝き ─ コルドバ
8 十字軍とイスラーム社会 ─ エルサレム
9 マムルークの活躍 ─ カイロ
10 大航海時代前夜のイスラーム世界

テーマは、イスラム史 ─ 。

イスラムの誕生から、オスマン帝国が勢力を拡大する以前までを描きます。

第8巻は、本シリーズではめずらしく、ひとりの著者が執筆しています。そのため、各章のつながりがよく、物語をたどるように、さらさらと読みすすめていけます。

語り口もやさしく、過不足なくイスラム史のポイントを説明しています。

世界史(イスラムの箇所)を勉強する高校生の人たちにも、おすすめですね。わたしは勉強もかねて、2回くりかえし読んでしまいました。それくらいわかりやすく、おもしろいです。

『世界の歴史8 イスラーム世界の興隆』詳細


以下、気になったトコをあげていきます。

つぎの2点です。

  • イスラムの征服方法
  • 奴隷のあつかい方

それぞれ、くわしくみていきます。

イスラームの征服方法

イスラーム史をたどってギモンに思うのは、広範囲の領土を、なぜ短期間のうちに治めることができたのか、という点 ─ 。

さいきんでは少数派ですが、むかしは「剣か『コーラン』か」(=死もしくは改宗)をせまったから、とされてきました。いま、イスラームをこんなふうに考える人はいません。

たしかに、他国に侵入するときは武力をつかいました。けれど、敵を包囲したあとは、

・イスラムに改宗するか
・人頭税を支払って、それまでの信仰を保持するか
・2つを拒否して、武力で争うか

の選択肢が用意されていました。

つまり、ある程度のお金を払えば、宗教も生命もまもることができたわけです。

侵略による強奪があたりまえだった時代に、ゆるくおだやかな征服方法だった、といえます。

いっぽう、異国にたいするヨーロッパのやり方は……。

エルサレムを支配したときの十字軍をみてみましょう。

1099年6月、エルサレムに到着した「巡礼団」は、凶暴な武力集団へと変貌した。7月10日、十字軍は城壁をのりこえて市内に乱入し、老若男女をとわず、数えきれないほどのムスリムとユダヤ教徒を殺害した。〔略〕なぜ十字軍がこのような虐殺にはしったのかは不明であるが、いずれにせよムスリムたちは、これを機に、キリスト教徒との「強いられた戦い」を余儀なくされることになった。(p.292)

イスラム側にとって、「十字軍」の意味はわかりませんでした。〝ヨーロッパからはるばる巡礼におとずれたグループ〟くらいの認識しかなかったといわれています。

そのため、争いはもってのほか、相手が来たときには、エルサレムのまちを案内していたくらいです。

それがとつぜんにキバをむき、イスラムの人びとに殺しにかかってきたわけです。引用のとおり、不条理をかんじずにはいられなかったでしょう。

「十字軍」ひとつとっても、ヨーロッパ/イスラムによる征服方法のちがい(=優劣)が、わかると思います。

イスラーム圏の奴隷

奴隷というと、主人にこきつかわれて、身も心もボロボロにさせられるイメージがあります。

しかし、イスラム圏での「奴隷」のあつかいは、すこしちがいます。

かれらは、異国の地で商人から買われたあと、イスラムの各国で売られることになります。

こうきくと「人身売買」ですが、そのあとのあつかいが異なります。

主人に購入されたあとは、奴隷の身分から解放され、ふつうに教育をうけたり、軍事トレーニングをすることになります。

さらに成人になれば、結婚もゆるされ、通常の経済活動をおこなうこともできました。

イスラム世界が安定した、アッバース朝(750年〜)の治世では、奴隷といえども、世の中での活躍がみとめられていたわけです。

イスラム社会の奴隷も「物」としての性格に着目すれば、主人の所有物としての売買、相続、贈与の対象にされた。しかし「人間」としての性格についてみると、男女ほ奴隷とも主人の許可をえて、結婚することは可能であったし、解放の条件が金額でしめされている場合には、その資金を蓄えることが認められていた。また〔略〕奴隷のムスリムには、金曜日の集団礼拝、メッカ巡礼、聖戦(ジハード)への参加について、厳しい義務は課せられなかったのが特徴である。(p.190)

つまり「奴隷の人身売買」といっても、いまでいえば、企業への人材派遣みたいなものでした。

もちろん、厳しい主人(≒ ブラック企業)のもとに入れば、ひどい仕打ちをうけたかもです。けれど、キホンは奴隷へのあつかいは、想像するほど、ツラいものではありませんでした。

というのも、『コーラン』の教えのなかに、「自分が右手で所有する者(奴隷)にも、やさしくあれ」という項目があるからです。

イスラム教徒の主人たるもの、奴隷にたいしても、ひとなみの生活をほどこす必要がある ─ ひとりひとりが、こんな自負心をもっていました。

このあたりに、宗教の影響をみることができます。

おわりに

本書は、「詳しさ」と「分かりやすさ」が、ほどよくマッチしています。

世界史学習にはぴったりなので、ぜひ手にとってみてください。