どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。
大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。
社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。
働くなかで思うのは、自分の市場価値をアップするには「教養」が大切だということ。
・いい発想をする
こう思える人は、キホン、教養を身につけています。
わたしも、これまで古典&学術書を読みあさってきました。
なかでも、さいきんブームになっているのは「世界史」です。
ここ数年、ビジネスマンの必須知識として「世界史」が注目をあつめています。
ネット時代をむかえ、グローバル化が加速しているからです。
なかでも近代ヨーロッパの歴史は、とても大切です。
この時期に、いまの思想・制度のベースがつくられたからです。
とはいえ、近代ヨーロッパを知るには、範囲も広く、なかみもフクザツ ─ 。
理解するのは、たいへんです。
そんなとき、つぎの本をみつけました。
著者は、中近世ドイツ史、ヨーロッパ近代政治思想史の専門家。
本書では、[中世世界の崩壊〜市民社会の形成]までを描きます。
近代ヨーロッパ期の「政治」「経済」「思想」を、ひと通りあつかっています。
分量もほどよく、文体もていねい。
・市場経済システム
・近代思想
など、近代ヨーロッパの根幹となる部分を、政治史をたどりながら、くわしく描いていきます。
とりあえず、この本を読めば、近代ヨーロッパの全体像を把握できると思います。
目次
成瀬治『近代ヨーロッパへの道』の概要
まずは目次。こんなかんじです。
第二章 アルプスの北と南
第三章 国家のなかの教会
第四章 暴君をたおせ
第五章 転換期としての十七世紀
第六章 議会の国・王権の国
第七章 戦争と租税、そして民衆
第八章 人民によらぬ人民のための統治
第九章 市民社会の成長
1章〜4章で、中世社会が崩れていく過程と、各国と教会の対応についてみていきます。
5章〜7章で、1600年代以降をあつかい、中世の慣習&制度が崩壊し、危機をむかえるなかで、いまの近代のしくみが立ち上がってくるようすを描きます。
個人的には、この3章分が、イチバンの読みどころです。
8章〜9章で、近代のしくみが確立し、思想・制度が、じっさいにどのような影響をもたらしたのかを述べていきます。
目次をみてもわかるとおり、近代ヨーロッパの政治・経済・思想を、ひと通り網羅(もうら)しています。
順々にみていくのも良いですし、気になるテーマから読んでいくのもオーケーです。
概説書としては、満点の出来だと思います。
成瀬治『近代ヨーロッパへの道』の詳細
以下、気になったトコをみていきます。
近代のキッカケとなったできごと
中世では、神と教会がヨーロッパ世界をかたちづくってきました。
そんななか、1500年代〜1600年代にかけて、3つのできごとがおこります。
・新大陸の発見
・宗教改革
ルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの遺産を見みなおしつつ、新たな文化・精神を形成する運動 ─ 。
「神の視点」から「人間中心」の世界をつくりあげる動きです。
新大陸の発見は、ご存知のとおり、コロンブスによる「アメリカ大陸到達」のことです。
大交易時代のなか、イタリア商人&ヨーロッパ諸国が、遠方地域で、つぎつぎに植民地となる土地を発見していきます。
宗教改革は、宣教師「ルター」が、堕落した教会にたいして抗議(=プロテスト)した事件をキッカケに広まった運動です。
コレにより、中世世界を築いてきた教会の権威は〝地に落ち〟ます。
それまではヨーロッパ全体に影響をあたえていた教会組織ですが、チカラは縮小し、国家(領邦)の一部となります。
ドイツでは、この事態を「領邦教会体制」とよびます。
たとえば、人事でも、各教会の司祭は、カトリック教会のトップが決めてましたが、任命権は、土地をおさめる領邦君主へと移っていきます。
〔……〕ルター派の領邦では、司教は〔……〕教皇の任命ではなく、領邦君主が、いわば自国における「最高司教」として、司教以下のあらゆる聖職者を任命し、これをつうじて、領民の宗教生活〔……〕を規制するような体制ができあがったのである。(p.121)
さらには、個人の「魂」も、教会に〝すがる〟のではなく、ひとりひとりが、じかに神と向き合い、自分でつくりあげていきます。
ここから「個人主義」の流れに発展していきます。
1500年代の拡大&発展
本書では、ウェッブ『大いなるフロンティア』(1953年)の参考にしながら、3つのキッカケを、つぎのようにまとめます。
・新大陸の発見 → 肉体の解放
・宗教改革 → 魂の解放
この言いまわしは、近代の幕開けをうまく表していますね。
1500年代以降、ヨーロッパの人たちは、(神&教会から)知性・肉体・魂が〝解き放たれ〟ます。
それにともない、土地・資本・人口の3つが拡張・拡大していくわけです。
17世紀の危機=1600年代の衰退
うえの3つをキッカケに、ヨーロッパは発展・繁栄していきます。
なかでもオランダ&イギリスは、大国スペインをやぶり、政治・経済の面でも覇権を握ります。
アムステルダム〔オランダ〕は、かつてのアントワープにとって代わって、世界的な商業・金融の中心にのしあがり、1602年には、オランダ東インド会社が設けられて、海外への通商・植民活動にも乗り出してゆく。(p.194)
イギリスは、無敵艦隊の撃滅後、さらに攻勢に出て、〔……〕1590年、91年、95年と、大西洋を越えて西インド諸島に攻撃をくわえ、1596年には、〔……〕スペインの要港「カディス」をおそって、じんだいな損害をあたえた(p.194)
しかし、1600年代中ごろから、ヨーロッパ全体が、じょじょに衰退していきます。
16世紀のヨーロッパ経済が、成長ないし膨張の一途をたどったのにたいし、17世紀に入ると、経済の沈滞と収縮がおこり、〔……〕この傾向が、18世紀初頭までつづいた〔……〕(p.198)
本書では、3つの要因をあげます。
② 経済の落ち込み
③ 精神の危機
ひとつひとつ、カンタンにみていきます。
① 都市国家の衰退
1300年代〜1500年代にかけては、経済を引っ張ってきたのは、都市国家の商人たちでした。
たとえば、海洋交易についても、ヨーロッパ各国に、イタリア商人が、資金援助&技術支援することで、発展・拡大をうながしてきました。
しかし、1600年代に入ると、国家のチカラがつくようになります。領土をおさめる君主が権力・権威をもつようになります。
ここから、たとえば、
・官僚組織の形成
・都市の組み込み
・宮廷文化の拡大
が、なされていきます。
経済活動をリードしてきた都市国家(商人)が衰えることで、ヨーロッパ地域全体が、衰退していきました。
〔……〕都市が発展させていた経済力は、王権に集中されて、国王が政治が、商工業の分野を規制し、指導するようになる。「重商主義時代」と呼ばれる時期がここに始まる〔……〕(p.206)
つまり、権力の移行にともない、(一時的に)世の中の動きが鈍くなる、という考えです。
② 経済の落ち込み
2つ目は、直接、経済活動にかかわるはなしです。
新大陸を発見して以来、1500年代にかけて、アメリカ大陸からヨーロッパ地域に、通貨となる「銀」が、大量に流入していました。
いっぽう、ヨーロッパからは、資金をもとにつくられた商品が、アメリカへ輸出されていました。
発展・拡大のサイクルができていましたが、1600年代に入ると、バランスがくずれ、アメリカ大陸でのヨーロッパ商品にたいする需要が減っていきます。
結果、銀の流入も減少し、ヨーロッパ地域の経済も落ち込みます。
経済学でいうところの「デフレ」ですが、それにより、ヨーロッパ全体が衰退します。
③ 精神の危機
さらに、政治・経済の雰囲気を反映するように、精神の危機が、叫ばれるようになります。
具体的には、この時期に発表された作品をみると、人間の〝負の側面〟を描くものが多い。
たとえば、劇作家のシェイクスピアは、1500年代後半までは、『真夏の夜の夢』『お気に召すまま』など喜劇作品がメインです。
いっぽう、1600年代に入ると、『ハムレット』『リア王』など悲劇がメインになります。
ほかにも、イギリスでは、エリザベス女王没(1603年)、あやしげな彗星(1618年)による動揺で、「終末論」の流行します。
こんなふうに、精神面での落ち込みが、1600年代の衰退につながった、と考えられます。
…
案の定、衰退は、一気に加速していきます。
宗教改革にともなう対立(カトリック vs プロテスタント)は激しくなり、ドロ沼の「30年戦争」へ突入します。
この戦争は、それまでにほど、ヨーロッパ全体に被害がもたらします。
しかし、ここから、統治システム、思想・哲学のあり方を見直そうと、さまざまな考え・アイデアが提案されます。
・デカルト『方法序説』(1637年)
・ホッブス『リヴァイアサン』(1651年)
などなど。
このときの考えがベースとなって、つづく近代の思想・制度が築かれていきます。
その意味で、歴史上、1600年代の危機は、大きなターニングポイントだったともいえます。
おわりに
本書は、[中世世界の崩壊〜市民社会の形成]までを描きます。
近代ヨーロッパ期の「政治」「経済」「思想」を、ひと通りあつかっています。
近代のしくみ、できごとを知るには、もってこいの1冊です。
全体を網羅(もうら)しているので、全体を把握するには、おすすめです。
よければ、チェックしてみてください。
ではまた〜。