【書評】『世界の歴史 25 アジアと欧米世界』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 25 アジアと欧米世界』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第25巻です。

『世界の歴史 25 アジアと欧米世界』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

1 大洋の時代
2 衣食住の国際政治
3 ひとつの世界へ
4 ヨーロッパの生活革命
5 ヨーロッパの工業化とプランテーション開発
6 「パクス・ブリタニカ」の盛衰
7 戦争と植民地支配
8 日本開国とアジア太平洋
9 二十世紀の新展開

本書のテーマは、近世前後のアジアと欧米世界 ─ 。

いわゆる「大航海時代」以降の世界を描いていきます。

むかしの教科書では「大陸の発見」の言葉どおり、西洋中心の視点から説明されていた時代です。いまは見直しがなされて、アジア側からの目線もとりいれ、包括的に語られるようになりました。

本書でも、東南アジアの「マラッカ」から記述をスタートします。

そのうえで、14世紀当時の交易状況から、20世紀の帝国主義時代にいたるプロセスを、じっくりみていきます。

たんに交易の流れをたどるのではなく、他国との輸入/輸出によって、人びとの暮らしがどんなふうに変化したのか ─ その点もくわしく描いています。

著者のひとり川北稔さんのパートでは、「近代世界システム論」(ウォーラ・ステイン)を軸に説明されているので、西洋中心史観の問題を抜けだせていない、と思うかもです。

それでも「システム論」は学術ツールのひとつとしてふれられているだけです。

重点は、アジアと西洋諸国(イギリス)の交易関係にあり、綿・茶葉・砂糖など産品が、各国にどんな影響をあたえ、社会のようすをどう変化させたのかをメインに書いています。

データを示しつつ、フラットな視点でのべているので、「西洋中心史観」からは自由になっているんじゃないかなぁと、個人的には思いました。

『世界の歴史 25 アジアと欧米世界』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • 産業革命の要因
  • 工業化と紅茶

それぞれ、みていきます。

産業革命の要因

なぜイギリスで産業革命が起きたのか ─ この問いは、いまでもよく語られます。

本書では、その要因のひとつとして「海外製品の国産化」をあげています。

産業革命が起きるまえ、イギリスすでに、西インド諸島&インド地域一帯のマーケットをおさえていました。西インド諸島の砂糖、インドでの綿織物を買いとり、ヨーロッパ一帯に売りさばいてていたんですね。

しかしその後は、仲介貿易で利益をあげず、イギリス本国で製品をつくり、海外市場で売り出すことになります。

そちらのほうが儲けが大きいからです。

背景には、海外の広大な領土をおさえているため、コットンやサトウキビなどの原材料は、よそから安く調達できる状況がありました。

くわえて、綿織物や砂糖にたいする需要はすでに存在するため、売れなくて在庫が積み上がるといった心配もありません。

こうしてイギリス国内では、製品づくりに邁進できて、その結果、さまざまなイノベーションがおこり、高い成長率を確保できた、というわけです。

奴隷貿易と奴隷制プランテーションの収益が、イギリスの産業革命の資金源となったこと、奴隷と砂糖をつなぐ大西洋の「三角貿易」こそが、はじめのうちは、イギリスに原綿を供給し、また、その製品の輸出市場を提供した。

─ 5章 p.241

つまり、

・安い原材料
・つくった品物への高い需要

があったからこそ、技術革新がおこり、生産性を高めることに成功した、というわけです。

ひとつの発明(イノベーション)が産業革命を起こしたわけではありません。ものごとをとらえるには、広い視野でみることがたいせつ ─ その典型といえる事例といえます。

工業化と紅茶

海外からの製品は、人びとの暮らしを大きく変えていきます。その例を紅茶と砂糖にみることができます。

本格的に工業化がスタートしたイギリスでは、都心部での工場労働がメインになっていきました。そのさい、都市エリアへの一極集中が問題になります。

住居スペースが確保できず、お風呂場はもってのほか、キッチンさえ備えつけることができません。

そこで重宝されたのが「砂糖入りの紅茶」でした。

「甘い紅茶」は、お湯さえ沸かせば、

・それなりのカロリー
・カフェインによる覚醒作用

を手にすることができました。

カフェインを大量にふくむ紅茶と、高カロリーの砂糖〔中略〕などは、イギリスの工業化に不可欠な基礎食品となった。冷たいパンを一瞬にして「ホット・ディッシュ」に変えてしまう、一杯の砂糖入り紅茶がなければ、ヴィクトリア朝イギリスの都市生活は成り立たなかったはずである。

─ 7章 p.311

一概に言えませんが、工場労働にともなう都心部の集中が、「紅茶ブーム」をもたらしたのは、まちがいありません。

この影響をうけてイギリスは、茶葉をもとめて中国(清朝)に貿易港の開設をせまり、交渉がすすまないことから「アヘン輸出」という禁じ手をつかいます。

やっぱり世界はつながり、時を越えてさまざまな影響をあたえているとわかりますね。

おわりに

以上のように、本書では大航海時代以降の交易の流れをあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。