【書評】『世界の歴史 24 アフリカの民族と社会』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 24 アフリカの民族と社会』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第24巻です。

『世界の歴史 24 アフリカの民族と社会』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

第1部 自然と民族のアフリカ
1 自然と人間の共生史と矛盾
2 民族誌からアフリカ史を発掘する
3 多様な民族の生成と戦略

第2部 都市と王国のアフリカ
1 プロローグ ─ アフリカ理解のために
2 王国のアフリカ
3 都市のアフリカ ─ 地域間の交流
4 外部世界とアフリカ

第3部 イスラームのアフリカ
1 プロローグ ─ 人類学的イスラーム史叙述に向けて
2 セム的一神教の普及と土着化
3 イスラーム改革の胎動
4 「近代化」のなかのイスラーム復興

本書のテーマは、アフリカ大陸 ─ 。

第1部では、アフリカ大陸の自然環境や、民族の成り立ちについて語ります。

第2部では、アフリカ各地の王国について説明します。

国のあいだのつながりや、ヨーロッパ諸国との交易をメインにあつかいます。いわずとしれた「奴隷貿易」も、このパートでとりあげます。

第3部では、アフリカ地域でのイスラームの影響についてみていきます。

アラビア半島に隣接しているいうことで、アフリカの各民族は、ふるくからイスラームの影響下にありました。誕生当初から、その変遷を描いていきます。

文庫とはいえ、全部で600ページ以上あります。ほかをみても、これほどくわしく論じた「アフリカ史」はありません。

いっぽう、じゃっかん内容がこまかすぎて、混乱し、飽きてしまうかもしれません。個人的には目次をみて、気になるテーマをあつかった章から読んでいくのが、いいかなと思います。

『世界の歴史 24 アフリカの民族と社会』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • アフリカで紛争が絶えない理由
  • 奴隷貿易廃止の背景

それぞれ、みていきます。

アフリカで紛争が絶えない理由

アフリカの国家というと、各地のあいだで年じゅう争っているイメージがあります。

じじつ、後進国にくらべて紛争件数は多く、これが国の発展をさまたげています。

他国から援助をうけても、うまく活用できず、となりの国と争ってしまいます。

なぜでしょうか。

ひとつには、

自分たちのグループ(=われわれ)に資するなら、ほかの集団(=かれら)を殺害してもいい

という慣習が、民族内部に根づよく残っているからです。

本書ではそれを「文化装置」とよびます。

たとえ近代化の恩恵をうけたにしても、その機会を、アフリカ全体にまで広げる気運が生まれない ─ 他民族殺害の文化装置から抜け出せないのが、紛争が絶えない要因です。

もうひとつは、国民国家の考えが浸透しないことです。

国民国家とは、多くは1億人以上の人びとをまとめあげ、国という〝旗印〟のもとに、各個人を治めるかたちをとります。

しかし、アフリカでは、それぞれの民族意識がたいへん根づよい ─ 。

ある区画に線をひいて「国民国家」をつくりあげたにしても、統治下の各民族が利益をもとめて、なかなかひとつにまとまりません。

そのため他国から、国民国家であるはずの一国に支援がきたにしても、一部の民族が資本を独占し、ほかの部族をしいたげる、というながれが、くりかえされます。

民族意識の強さゆえに、国民国家の考えが広まらないこと ─ これが、紛争が絶えず、経済発展が遅れる要因になっています。

第二次大戦後から1960年代にかけて、いわゆる第三世界の国々がつぎつぎに独立した。かれらがモデルにしたのは、この西欧型の国民国家であった。独立を勝ち取った人びとは、新しい国民への脱皮をめざした。〔略〕しかしその結果あきらかになったことは、国民への脱皮ではなく、それぞれの民族のエスニシティ(民族性)の活性化であった。

─ 3章 p.161

奴隷貿易廃止の背景

アフリカといえば、どうしても「奴隷貿易」のイメージが抜けきれません。

西洋史においても、ヨーロッパ諸国の人たちにとって、黒人を〝こきつかった〟事実は、歴史的にみて、ひとつの汚点です。

そんな負い目があるためか、奴隷貿易を廃止した理由を、

ヨーロッパ国内で、啓蒙思想による人権の考えが広まったから

と、かれらは説明します。

しかし、アフリカの研究者からみてみれば、奴隷貿易がなくなったのは、時が経つれて、黒人奴隷が〝割に合わなく〟なったからです。つまり、「三角貿易」のいったんをになう黒人のコストが、年を追うごとに高くなってきたからです。

背景には「産業革命」があります。

イギリスをはじめ、機械よって生産コストが減少 ─ それにより相対的に、黒人労働の費用がアップします。その結果、黒人奴隷も減り、さいごは廃止されたというわけです。

もちろん啓蒙思想の影響もあるでしょう。けれどそれ以上に、マーケットメカニズムの動きがはたらいたことが、いちばんの要因です。

奴隷貿易の廃止は、人道主義の勝利ではだけではなかった。産業革命の進展の時代にはいり、奴隷貿易の利潤が割にあわないという、純粋に経済学的な計算があった。

─ 6章 p.278

「人権」のような理想論だけでは、現実は動かないことを、奴隷廃止の事例からみることができます。

これもまた歴史を知る意味かなと思います。

おわりに

以上のように、本書では古代〜近代前後のアフリカ大陸をあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。