【書評】『世界の歴史 22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第22巻です。

『世界の歴史 22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

第1部 フランスとドイツ ─ 国民国家へのはるかな道
1 フランス革命とナポレオン以後のヨーロッパ
2 ヨーロッパ新秩序 ─ ウィーン体制
3 一八四八年革命とヨーロッパ
4 フランス第二帝政とドイツの統一
5 ブルジョワ共和制下の国民統合
6 エピローグ ─ 仏・独国民統合の意味するもの

第2部 自由を求める南ヨーロッパ
1 十九世紀のヘゲモニーをめざして
2 イタリア統一への道

第3部 十九世紀ロシアの嵐
1 改革か停滞か ─ 十九世紀前半のロシア
2 改革か革命か ─ 帝政末期のロシア

第4部 ヴィクトリア時代イギリスの光と影
1 プロローグ ─ 工業化社会の成立
2 産業革命の時代
3 改革の時代(1830〜1850年)
4 繁栄の時代(1851〜1873年)
5 帝国主義の時代
6 ヴィクトリア時代の文化

本書のテーマは、近代ヨーロッパ ─ 。

ナポレオン戦争後の西欧諸国をとりあつかいます。

具体的には、ウィーン会議から帝国主義時代の直前まで。年代でいえば、1815年から1850年ごろあたり。英・仏・露・独 ─ 4カ国を軸に描いています。

ただし各国別ではなく、ヨコのつながりもしっかり説明します。なので年代ごとに、各国でどんなやりとりがあったのかを、ざっくりつかむことができます。

ひとつの国しかあつかわないと、そのときどきの国際情勢がわからなくなりますよね。これだと、どうしても近視眼的になりがち。

それを避けるために、本書では国際関係も、ていねいに描いています。

広い視野で、ナポレオン戦争後のヨーロッパ世界を知るには、おすすめの1冊です。

『世界の歴史 22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • フランスの都市計画
  • ジェントルマンと資本主義の精神

それぞれ、みていきます。

フランスの都市計画

ナポレオン失脚後、フランスでは共和政 → 帝政と、政治体制がいったりきたりします。そこから登場するのが、ナポレオンの甥っ子「ナポレオン3世」です。

マルクスをはじめ、彼にたいする評価は、さんざんでした。

しかしさいきんの研究では、ナポレオン3世による政策は、それほどおかしいと思われてません。なかでも評価されているのは「都市パリの改修計画」です。

ナポレオン登場以降、イギリスにつづき、フランスでも産業革命が起こります。経済も発展し、人びとの暮らしも豊かになっていきます。

そのいっぽうで、首都パリでは人口増加がすすみ、生活環境は日に日に悪くなっていきました。住居空間はせまく、路地はゴミであふれていました。当然、衛生面もわるく、疫病が蔓延しました。

そこで不潔で汚い街並みを解決するため、ナポレオン3世は、都市整備に乗り出します。ブレーンにオスマンをむかえ、パリの街を改造&改修します。

その結果、通りは広くなり、人やモノの移動がスムーズにおこなわれます。

下水道がしかれたことで感染症で亡くなる人も少なくなり、経済効率を考えた、クリーンで過ごしやすい街へと生まれ変わります。

19世紀パリの水売りの話は有名だが、かれらが汲み出すセーヌ河の取水口の近くで洗濯船がうかび、下水口から汚水がたれ流される、といったおぞましい光景は、これによって解消されたのである。

─ 4章 p.152-153

じつはいまのパリの街並みは、ナポレオン3世がおこなった都市政策をひきついでつくられています。あの放射状に広がった都市空間は、彼の一声で設計されたものです。

そう考えると、ナポレオン3世にたいするネガティブな評価は、一面的な見方といえるでしょう。

そのほか、産業復興のために資金を貸し付けるなど、フランスが近代国家として歩みをすすめるベースをつくりあげました。

こういう点からしても、彼への評価はもっと高まっていいかなと思います。

ジェントルマンと資本主義の精神

つぎは、隣国のイギリスです。

英国では、すでに産業革命の波にのって、中間層の暮らしは、だいぶ豊かになっていました。

こちらも、それまでの研究では、勤勉・節制・蓄財をベースにした「資本主義の精神」が市民のあいだで生まれ、その心意気が経済発展をうながした、とされていました。

しかしさいきんの研究では、この「資本主義の精神」なるものは、初期の産業社会でみられるだけ、とされています。

それなりに豊かになった世代では、勤勉・節制・蓄財の精神はうすらいでゆき、お金を使うことへの志向が高まっていきます。

そのなかでも、新たな中流階級が求めたのが「家柄」でした。

つまりイギリスでは、産業革命で豊かになった人たちは、それまで経済資本を牛耳ってきた上流階級(=ジェントルマン)を打ち倒そうとはしませんでした。

むしろ、かれらの地位や名誉にあこがれ、〝新参者〟である自分たちも、ジェントルマンの名をほしがるようになったわけです。

そのさい重視したのが、資産と教養であり、ふたつをもとめるエネルギーが資本経済をうながし、じっさいに獲得した者が、政府要人となり、ときの政治を動かすようになります。

このような社会経済のありかたを「ジェントルマン資本主義」とよびます。

工業化先進国のイギリスでは〔中略〕いわゆるブルジョワ革命はついにおこらなかった。〔中略〕イギリスの中流階級は、伝統的支配階級のイデオロギーであるジェントルマンの理念を否定して革命をおこすどころか、逆にこれを肯定し、さらにすすんで自分もジェントルマンになりたいとつよく望むようになった〔中略〕。そしてイギリスでは、このジェントルマンという伝統的な理念と地位をもとめる中流階級のつよい欲求が、すぐれてその後の歴史の局面を切りひらいていった。

─ 12章 p.481-482

マックス・ヴェーバーのいうとおり、勤勉・節制・蓄財を軸にした精神が、資本主義をうながしたのは、まちがいありません。

けれど、その仮説はごく一部の地域や時代にあてはまるだけです。

少なくともイギリスでは、産業革命初期の世代くらいまで。あとの世代になると、成り上がりの中流層は、いままで政治や経済を牛耳ってきたジェントルマン層のふるまいに、あこがれをいだくようになります。

コツコツまじめに働いて資産を貯めるよりも、名誉や地位を得て、政治や経済を動かしていく ─ こんな現象が、英国ではみられるようになるわけです。

個人的には、「ジェントルマン資本主義」の考えのほうが、現実をよりよくとらえているような気がします。

こと善悪は別ですが。。

おわりに

以上のように、本書では近代初期のヨーロッパをあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。