【書評】『世界の歴史 23 アメリカ合衆国の膨張』感想&レビュー

どうも、りきぞうです。

大学のころから、世界史に親しんできました。

大学院時代は、本格的に人文書・歴史書にあたってきました。

きょうは『世界の歴史 23 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』を紹介します。

本書は、中央公論新社から出ている「世界の歴史シリーズ」の第23巻です。

『世界の歴史 23 アメリカ合衆国の膨張』の概要

まずは目次から。こんなかんじ。

第1部 独立革命から「アメリカの世紀」へ
1 巨大であろうとする新国家
2 建国初期の嵐を乗り越えるなかで
3 膨張がもたらした栄光と破綻
4 内戦の嵐をとおして
5 世界第一の工業国家へ
6 「アメリカの世紀」を目指して

第2部 アメリカ文化の展開
1 新国家の文化を求めて
2 アメリカン・ルネサンス
3 金めっき文化の展開
4 アメリカ文化時代へ

本書のテーマは、アメリカ史 ─ 。

「イギリスにたいする独立戦争」以降から、フロンティア消滅の時期までをあつかいます。

年代でいえば、1800年から1900年ごろです。

アメリカの拡大期を描く本は少ないような気がします。そのため、本書はかなり貴重です。

南北戦争の背景や展開についても、詳しく説明しているので、この箇所だけ読んでもいいかもです。

また第2部では、アメリカ発展期の文化についてもふれています。

小説やミュージカルなど、いまのアメリカン・カルチャーにつながる過程を、詳細に描いています。好みは分かれるかもですが、アメリカ史を立体的にとらえるには、目をとおしておきたいところです。

『世界の歴史 23 アメリカ合衆国の膨張』のポイント

わたしが気になったのは、つぎの2点。

  • なぜアメリカは膨張していったのか?
  • 南北戦争の目的は「奴隷解放」ではない

それぞれ、みていきます。

なぜアメリカは膨張していったのか?

植民地だった13州は、イギリスにたいして独立戦争をしかけ、アメリカ合衆国として国家を成立させます。

その後、13州におさまらず、西方に向けて、領土を広げていきます。

では、なぜアメリカはそれまでの国境で満足せず、州の数を増やしていったのでしょうか。

なにも、先住民の土地を奪いたかったからではありません。

いちばんの要因は、ヨーロッパ諸国からの介入を避けるためです。

13州が独立した当時、西のお隣りルイジアナは、フランスが領土をにぎっていました。さらにその隣りは、スペインの領土でした。

東海岸地域をおさえるアメリカからすれば、ほかの国が西どなりにいることが、それ自体で脅威です。いつヨーロッパ本国からの指示で、13州にむけて侵入してくるか、わからないです。

13州への干渉&介入のリスクを避けるためにも、西方の領土を治めるのは、なにがなんでも必要でした。

アメリカが膨張した、いちばんの理由は、これです。

初期アメリカ合衆国の膨張の論理には、たえずヨーロッパを意識した、それゆえに広大な統一国家への指向と、その求心力維持のために内部を同一化していこうとする〔略〕関心が、早い時期から流れていた。

─ 1章 p.42

もちろん領土をおさえる過程で、アメリカ独特の「フロンティア精神」がめばえ、さらにさらに西方へ領土を開拓していったのは事情です。

けれど初期の目的は、ヨーロッパ諸国の干渉を避けるため ─ アメリカの膨張については、この要因をおさえておくのが、たいせつです。

いっぽうで皮肉なことに、領土を広げるなかで、それぞれの州において「国家理念」が異なり、あつれきが生じるようになります。

そのさい、もっとも争点となったのが「奴隷制度」でした。争いは激しさを増し、ついには「南北戦争」へと発展していきます。

南北戦争の目的は「奴隷解放」ではない

いっぱんに南北戦争の争点は「奴隷制」あったといわれます。

しかし、奴隷制に反対した北部諸州(=自由州)も、南部諸州(=奴隷州)でなされている奴隷制度については、ある程度の範囲で認めていました。つまり、「即時撤廃」を求めていたわけではなかったわけです。

北部の代表であるリンカーンをはじめ、奴隷制で成り立つ南部に「黒人奴隷を解放せよ」とは言いませんでした。

そんなことをすれば、南部の経済が崩壊し、ゆくゆくは合衆国全体に悪影響をおよぼすのは、わかっていたからです。

奴隷解放演説が美化されていますが、リンカーン自身は、かなりのリアリストでした。

では、なにが問題だったのか。それは、

今後、新たに編入する領土(=州)にたいして、奴隷制を適応するか/しないか

という点です。

北部からすれば、「国家理念」「合衆国憲法」のうえで、もうこれ以上、奴隷制を認めるわけにはいきません。既存州での奴隷制はしかたないとしても、新たにつくられる州においては黒人奴隷を許可するわけにはいかない。

いっぽう南部諸州からすれば、奴隷制なくして、プランテーション経営は成り立ちません。

今後、ほかの土地に販路を拡大するためにも、新たに編入される州でも、奴隷制を適応させる必要がありました。

開拓地で奴隷制を認めるか/いなか ─ これが南北戦争における、いちばんの争点でした。

そもそも南北戦争は開戦時点では、南部諸州における奴隷制そのものを争点としてはいなかった。しかし連邦軍〔北部側〕が西部から敵地に侵攻したときに、いまや連邦政府は、南部奴隷制そのものの問題に、いやでも踏み込む現実に直面せざるをえなかった。〔略〕軍の前進それ自体が、奴隷制を解体にむけて動かしたのである。

─ 4章 p.197

争いの結果は、ご存知のとおりです。

リンカーンのリーダーシップもあり、北部側は勝利をおさめます。

しかし見逃してはならないのは、奴隷制廃止をうたう北部諸州が勝っても、制度はなくならず、黒人奴隷も減少しなかった事実です。

というのも、「国家理念」ばかりが先行して、奴隷を解放するにしても、その黒人たちをどうあつかっていいのか ─ 現実面でのビジョンが、ほぼなかったからです。

「選挙権を与えるのか」「経済支援をおこなうのか」などなど、じっさいに暮らす黒人への取りあつかいについて、明確な目標はありませんでした。

連邦軍〔北部側〕には当初、とつぜんの奴隷制解体に対処する用意がほとんどなかった。現場の指揮官が、保護を求める黒人のあつかいに困惑し、もとのプランテーションにかれらを追い返すといった行動までが、少なわらずみられた。

─ 4章 p.197

構想力の足りなさが、その後の「人種問題」へとつながっていきます。

こうみると、アメリカは植民地時代から、「黒人奴隷」という十字架を背負っているとわかります。それはいまも変わらず、ときには政治や社会を大きく揺らす原動力となっています。

いまを知るにも、歴史がいかに大切か、わかります。

おわりに

以上のように、本書では独立戦争後のアメリカをあつかっています。

この時代を知るには、もってこいの内容です。

よければ、チェックしてみてください。

では、また。