【書評】M.フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』感想&レビューです。

どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

数年まえから AI 技術が話題になっています。

そのなかでもホットなテーマとして、「AI が仕事を奪う」というものがあります。

じっさいのところ、どうなんでしょうか。

そんなとき、つぎの本が目につきました。

M.フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』

著者のマーティン・フォードは、アメリカのエコノミストで IT にたずさわる実業家です。

本書は、そのキャリアを活かし、IT とロボットの進化が、経済にどのような影響をあたえるか考察したものです。

AI 技術が、仕事や雇用にあたえる影響を知りたい方には、おすすめの1冊です。

M.フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』 の概要

目次は、こんなかんじ。

第1章 トンネル──ごく“普通”の人たちの雇用
第2章 加速──わが子供たちの将来
第3章 危機──市場の予測機能
第4章 移行──失業率75パーセントの未来
第5章 緑色の光──新経済システム後の社会
付記と最後の考察
考察に値する二つの質問


1章で、いまの雇用の現状について。

2章で、「AI + ロボ」が、雇用に与える影響についてふれていきます。

3章で、「AI + ロボ」が普及したあとの経済状況について。

4章で、「AI + ロボ」が普及したあとの、ひとりひとりの雇用と働き方について。

5章で、「AI + ロボ」が普及したあとの、社会のあり方のついて述べています。

M.フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』で気になったトコ

以下、引用をのせつつ、気になった箇所についてコメントしていきます。

これまでの経済の常識が通じない事態へ

これまでの経済(経済学)では、テクノロジーの進化で、たとえ仕事がなくなったとしても、失業者は、技術の進化でうまれた新しい仕事につく、とされていました。

しかし、同じテクノロジーでも「AI + ロボ」はちがいます。

その進化が速すぎるため、失業した人が、つぎの仕事に移れません。

つまり、「AI + ロボ」の技術は、雇用を生み出さないのです。

数百万希望の労働者が従来から職業奪われても、テクノロジーにはそれを吸収するだけの新たな仕事を生み出せるという考えは、全くファンタジーにすぎない。(082)

「AI が仕事を奪う」論では、おなじみのおはなしです。

著者は、これまでのテクノロジーとは異なり、「AI + ロボ」は人間の仕事を奪い、これまでの以上に失業者を増やすと主張します。

本書は、この前提ではなしをすすめていきます。

縮小する職業の人の分類

どんな職業が失くなる or 縮小するのでしょうか。

3つあります。

① ソフトウェア・ジョブ
② ハードウェア・ジョブ
③ インターフェース・ジョブ

① ソフトウェア・ジョブ

「ソフトウェア・ジョブ」とは、潜在的にソフトウェアによって自動化できる業務のことです。

「潜在的に」という点がポイントです。

いまは「人の手」でなされていても、いずれはキカイで処理できてしまう──こういう作業は、失くなる or 縮小の危機にあるとされます。

AI は、膨大なデータを参照し、高速処理で最適な解をもとめるのが得意です。

なので、こういった作業・業務をくりかえす「知識労働者」がまっさきに狙われます。

いま高い報酬・給料をもらっていてもカンケーありません。

すこしでもソフトウェアによって「自動化」される可能性があるなら、その仕事が失くなる or 縮小するかもしれません。

つまり、自動化するかどうかが、オフショアリング(キカイによる置きかえ)の圧力さらされるかの目安になります。

② ハードウェア・ジョブ

いっぽう、じっさいに「モノ」をつくる仕事も例外ではありません。

機械部品やプラスチック製品など、物理的なモノをつくる職業も、「AI + ロボ」に代替される可能性はあります。

なかでもモノとモノを組み立てる作業・業務は、いち早く置きかわる可能性が高いです。

〔……〕まもなく瀬戸際にたたされそうな職種とは、組み立てラインのような同一の作業を反復する仕事と自動車整備工のような仕事の、その中間に位置している仕事になりそうだ。(103)

サービス業でも、たとえば、小売業における在庫補充の業務などは、厳しい状況におかれそうです。

③ インターフェース・ジョブ

ソフト/ハード問わず、仲介業に位置するような作業・業務は、「AI + ロボ」に代替される可能性があります。

というのも、不動産業など、キホン仲介業は作業がフクザツすぎて、そのコストも膨大だからです。

IT のコストがなかでは、こちらのほうを利用する人たちが増えていき、結果的に、仲介業の仕事&職業は、縮んでいくと考えられます。

知識労働者に置き換わるような AI ソフトの場合、〔……〕手の込んだインターフェイスは必要とされない。〔……〕定形の判断を下し、所定の任務と分析をひたすら行うようにプログラムされるだけのソフトであり、その作業は〔……〕高給を得ながら、屋根裏で行われる業務である(112)

後半はやや皮肉ですが、そもそもいまの業務からして、大したことをしてない(生産性が低い)のに、高い報酬・給料をもらいすぎている、ということです。

「AI + ロボ」が普及すれば、あえなく代替されるわけです。

単純に、IT をつかったほうが、コストが安いからです。

技術と仕事のカンケー

これまでの経済では、技術と仕事には、つぎのようなカンケーが前提でした。

① 機械はツールであり、働く人の生産効率を高める
② 働き手のほとんどは、機械操作のスキルを持っている

つまり、たいてい働き手にとって、機械はカンタンに操作できて、付加価値を生みだせるのが前提だったわけです。

しかし、「AI + ロボ」は、この2つの前提を無効にする危険性をはらんでいます。

① については、「AI + ロボ」の進化により、キカイは人間よりも、仕事の能力を高める可能性があります。

なので、「機械はツール」とはいえず、反対に、キカイが人間をこき使う事態もありうるのです。

つまり、生産プロセスにおいて、資本が労働に置きかえられるのです。

② について、これまでの経済では、組み立てマシーンにしても、パソコンにしても、その操作は比較的カンタンでした。

たとえはじめは手こずっても、やっていくうちにこなせるようになり、生産効率を高めることができました。

しかしこれから訪れる「AI + ロボ」の進化は、人間の操作学習能力を〝おいてきぼり〟にする可能性があります。

たとえば、いまのグーグル検索のアルゴリズムは、現場のエンジニアも「なぜそのような検索順位をはじきだすのか」分からないとされています。

グーグルほどのエンジニアでさえ、このありさまですから、IT に疎いフツーの人が、道具としてキカイをこなせるとは思えません。

SF 小説の「ビッグブラザー」のように、人間の能力が届かないところで、キカイが勝手に「最適解」をもとめる可能性があるのです。

さいきんの中国における「AI型の社会」をみてると、キカイが人間の労働価値を決めるのも、そう遠くないような気もします。

おわりに

じつは本書は、2009年に、自費出版のかたちで広まったものです。

すでに10年以上まえに、「AI + ロボ」にたいする警告がなされるているのが驚きです。

それから10年ほど経過して、ますます「AI + ロボ」が仕事にあたえる影響は深刻になっています。

たしかに本書があらわすように、最悪の事態にはならないとは思いますが、これまでのような業務内容をくりかえしていけば、キカイに代替されるのは、まちがいありません。

好ましくない事態を想定しながら、ふだんの仕事を検討してみるのは、わるくありません。

よければチェックしてみてください。

ではまた〜。