チェーホフ『街道すじ』感想&レビューです。

どうも、コント作家のりきぞうです。

きょうも、コント作品をレビューしていきます。

取りあげるのは、チェーホフ『街道すじ』。

初期の作品です。

以下、ストーリーの大枠をみたあと、笑いのポイントをあげていきます。

ちなみに、松下訳で読みました。

以下、引用のページ番号は、うえの文献によります。

ストーリーの大まかな流れ

人物

ボルツォーフ

チーホン……居酒屋のマスター
メーリク……百姓
フェージャ……職人

クジマー……ボルツォーフの元下男
マーリヤ……ボルツォーフの元婚約者

場所

街道すじの居酒屋(南ロシア)

あらすじ

街道すじにある居酒屋。

巡礼者や職人など、貧乏人の人たちでごった返してる。

金なしで、アル中のボルツォーフが、マスターのチーホンに酒をねだっている。

店主は相手にしない。

そこに村の乱暴者メーリクがはいってくる。

貧相な客をののしり、マスターにデカい態度をとる。

みんながメーリクを恐れるなかでも、ボルツォーフは酒をせびりつづける。

あいてにされないとわかり、しぶしぶ金細工の時計をさしだす。

高価なものとわかり、すぐさま近よるメーリク。

まわりの貧乏人もあつまる。

そこに三番目のクジマーがやってくる。

ボルツォーフをみた瞬間、まえに奉公していた主人だと気づく。

もともと身分が高く、お金もち。しかし結婚式当日、女に逃げられ、それがキッカケで酒におぼれるように……。

落ちぶれたいきさつを知った客たち。

さんざんボルツォーフをバカにしていたが、女に裏切られたとわかると、手のひらをかえす。

チーホンはタダで酒をあたえ、まわりの貧乏人たちも小銭をめぐむ。

乱暴者のメーリクは、占領していたスペースをあけて、酔っぱらうボルツォーフを寝かしつける。

そんなとき、付き人といっしょに貴婦人がはいってきて……。

ひとこと

全体的にトーンが暗く、喜劇というより、シリアスな演劇にちかい。

それでも、ボルツォーフが落ちぶれるキッカケとなったのが女とわかったときの〝手のひらがえし〟は、クスッと笑ってしまう。

チーホン 〔ボルツォーフに〕ふしあわせなおかた、来て、一杯やんなせえ!(酒をつぐ) (……)

フェージャ 旦那、おれの分も飲んでくれよ! ほら!(5コペイカ玉をカウンターに投げる)飲んでも一生、飲まないでも一生だ!(……)ぐいっとやりなよ。 (……)

メーリク (起きあがって、ベンチのうえに短い毛皮外套を敷く)旦那、ここに来て、おやすみなせえ!

(p.36-37)

またみんなが寝静まる真夜中、馬車がこわれ、居酒屋に駆けこんできた貴婦人マーリヤが、ボルツォーフとバッタリ会うシーン。

再会によろこぶボルツォーフとはうらはらに、彼女のリアクションは、驚きと恐怖がにじみでている。

このコントラストが笑いをさそう。

ボルツォーフ マリー……。おまえじゃないか。どこから来たんだ。


〔ト書き〕マーリヤ・エゴーロヴナは悲鳴をあげて、店のまんなかへとびのく。

ボルツォーフ (あとを追って)マリー、ぼくだよ……。ぼくなんだよ! (……)

マーリヤ はなれてちょうだい!(……)

ボルツォーフ その声、その身ぶり……。ぼくなんだよ! いま酔いをさますから……。くらくらする……。ああ! 待ってくれ、待って!

メーリク (マーリヤの手をつかんで)まさしくこの女だ! えい、みんな! 旦那の奥さんだぞ!

マーリヤ どいて、土百姓! (ふりほどいて)ここは強盗の巣だわ!

(p.42-43)

さいしょ暗いかんじがします。

けれど、後半になるつれ、おかしさがましてくる。

副題に「一幕の習作」と付けられてます。

喜劇ではないのだが、シリアスながらも、どこかおかしい作品。

ユーモアに、ちょっぴりのペーソス(哀しみ)をまぜこむ。

チェーホフ劇の特徴ですね。

笑いのポイント

笑いのポイントをみていきます。

コントや喜劇で大事なのは、キャラクターとプロット。

この作品ではプロットに注目してみます。

コントのプロットはとてもシンプル。

[設定 → 展開 → オチ]がキホンのながれ。

コントの書き方 ─ プロットの構成について

なかでも「展開」が、作品の良し悪しを決めるんだけど、これにも「型」があります。

パターンは「反転」「逆転」「交錯」の3つです。

コントの書き方 ─ プロットの展開について

ストーリーを整理して、パターンをあてはめてみてると、構図は「逆転」だとわかります。

「逆転」では、 ひとつの出来事をキッカケに、それまでの立場が反転するようすを描きます。

人物の地位や権威をひっくり返すことで、笑いを生み出していきます。

この作品でも、はじめアル中のボルツォーフをバカにしていた居酒屋の客たち。

けれど、落ちぶれたいきさつを聞いたとたんに、態度をいっぺんする。

このながれが笑いをおこす。

図にするとこんな感じ。

構図 ─ 逆転
ボルツォーフ > 居酒屋の客

・ボルツォーフ=裕福な主人とわかる
・女で落ちぶれる
・客たち、同情する

ボルツォーフ < 居酒屋の客

構成のバランスをみたとき、ヴォードビル or コントにするなら、はじめのシーンはカットするかんじ。

ちゃっちゃと、ボルツォーフが落ちぶれるまでのエピソードを紹介して、そこにかれを棄てた奥さんを登場させれば、よりドタバタ感が増すようになるかなぁ。

参考にするなり、アレンジする場合は、こんな視点で作品をみるといいかもです。

まとめ

こんなふうに、プロットに注目してみていくと、よりいっそうコントを楽しめます

ほかの作品でも、こんな視点に立って作品で観ています。

ちがう記事ものぞいてみてください。

ではまた。

よきコントライフを〜。