【書評】『政府は巨大化する』 ─ 今後30年間における政府のあり方を予測する

どうも、りきぞうです。

これまで5000冊ほどビジネス書&教養本を読んできました。

今回、『政府は巨大化する』 を読んだので紹介します。

ポイントは、つぎのとおり。

ポイント
・本書では過去30年間の統計データから今後の政府のあり方を予測する
・医療・介護・気候変動・インフラ整備の外的要因から政府は大きくならざるをえない、と主張
・これら4分野に財政予算を割くため、ベーシックインカムの実施は現実的ではない、と反論する

個人的な評価は、こんなかんじ。

評価
分量
(4.0)
面白さ
(3.0)
難易度
(4.0)
おすすめ度
(3.0)

以下、目次に沿って、みていきます。

『政府は巨大化する』の概要

まずは概要から。出版社の紹介文は、つぎのとおり。

大増税か、国家の役割の縮小か。それとも債務危機か。逃れられない究極の選択。従来の常識を覆す新鮮な問題提起。この先30年にわたる国家財政の未来を描く。2020年フィナンシャル・タイムズ紙ベスト経済書。
医療、介護、気候変動、年金、インフラ整備、格差問題、教育投資、雇用確保……。コロナ禍への緊急対応のうえに、政府に持続的に加わる支出拡大の圧力。国家財政はこれからどうなるのか。政府が直面する本当に重要な課題は何か。
実は、支出拡大の最大の領域は、技術の進歩が顕著な医療だ。年金はもはや大きな焦点ではなく、パンデミック対応も脇役でしかない。大きな政府か、小さな政府かというイデオロギーの違い、政策選択の内容にかかわらず、各国はこれまでにない財政の膨張に直面せざるをえないのだ。

─ 出版社から

著者は OECD などの機関で財務分析をおこなう専門家。

各国の統計データをもとに、今後30年間における先進諸国の財政のあり方を予測する、というのが本書の内容です。

過去30年間の先進国では「小さな政府」をかかげる経済理論が幅をきかせていました。

しかし、これからの30年間は(イデオロギーを抜きして)各国の政府は大きくならざをえない、と主張します。

その要因となるのが、

・医療
・介護
・気候変動
・インフラ整備

の4つです。

なかでも医療の問題は深刻で、人口増&高齢化の圧力により、先進諸国の政府は、医療や介護に予算をかける状況に追い込まれる ─ その結果、財政はひっ迫し、給付の削減であったり、行政サービスの低下をまねく、と予想します。

大きな政府/小さな政府のどちらを好むにしろ、4つの環境圧力から、どのみち先諸国の政府は、財政をふくらますことになる、というのが、本書の大まかな主張です。

『政府は巨大化する』のポイント

2章〜4章で、医療&介護にたいする財政予算の増大についてあつかっています。

いっぽう、わたしが気になったのが、7章の雇用政策の問題。

5つの圧力により財政支出がふくらむなかで、失業保険をはじめとした、仕事にかんする財政政策は、どうなっていくのか。

ベーシックインカムの実施は現実的ではない

著者は、AI とロボティクスの発達により、あらゆる業務が自動化されると考えます。

この点については、さっこん幅をきかせる〝テクノロジー決定論者〟と同じ意見です。

しかし、業務の全自動化により、人間がやるべき仕事がなくなり、労働市場から追い出される ─ それにともない、かれらを救済するために「ベーシックインカム(ユニバーサルベーシックインカム)」を普及すべき、という意見に反対の立場をとります。

理由は単純で、さきにあげた5つの環境圧力により、ベーシックインカム(BI)をすすめるほど、どの先進諸国も余裕がなくなるからです。

端的にいえば、

BI の実施以上に「やるべきこと」が、たくさん出てくる

ということ。

そのひとつが医療&介護問題で、(いまの日本のように)先進諸国では激しい高齢化により、各国政府は両分野に予算をかける必要にせまられます。

そのなかで BI にお金を割くなんて、どだい無理な話だとして、バッサリ切りすてます。

テクノロジーが発達しても仕事はなくならない

そもそも「テクノロジー悲観論」の言うように、工学と情報技術の発達により、人間の仕事がなくなる、という意見に、著者は疑問をもっています。

過去30年をふりかえったとき、はたして IT の進展により雇用は失われたのか?

本書では、過去の統計データをもとに、

そんなことはない、むしろ、新たな雇用を生みだした

と主張します。

実際のところ、ここ数十年間は(景気後退期は別として)資本主義の歴史を通じてほぼそうであったように、雇用の状況は良好だった。1970年代以降、ICT 主導の自動化が大きく進んだにもかかわらず、増えていく労働者を吸収できるだけの雇用は増えて、ここ数十年に労働需要を増やした要因の力づよさをはっきりと証明した。

─ 7章 p.235-236

考えてみれば当然ですが、新たなテクノロジーが発生すれば、それを使いこなす人材が必要になります。

つまり、新しく誕生した技術を発展させたり、既存の業務にあてはめるためには、人間の力を借りる必要があり、そこに仕事&雇用が生まれます。

たとえば、スーパーに自動レジが導入されても、お客さんをレジまで案内したり、自動レジのプログラムをメンテナンスする業務が生まれ、必要になります。

AI とロボットの発達により、人間の仕事が奪われる

というのは、ショッキングでキャッチーなはなしですが、じっさいのマーケットでは、そんなことは起こりません。少なくとも、ネットが普及しはじめた過去30年をみると、雇用は減ったどころか、反対に増えています。

4つの環境圧力により政府予算がふくらむなかで、BI を実施するというのは、きわめて効率のわるい施策だといえます。

『政府は巨大化する』の感想

挑戦的なタイトルとは対照的に、はなしののなかみは、けっこうドライです。

さっこんの技術楽観論/技術悲観論とは異なり、すべて統計データをもとに議論を展開し、先進各国の政府は財政予算を拡大せざをえない、と主張します。

気候変動問題に予算をかける、という点は、じゃっかん〝イデオロギー臭〟がしますが、医療&介護問題については、「たしかに予算拡大が今後の課題になるな」と感じます。

あくまで予想なので、すべて鵜呑みにする必要はないんですが、これからの政府のあり方を考えるには、大きなテーマを投げかけていると思います。

気になる方は、ぜひチェックしてみてください。

おわりに

『政府は巨大化する』をみてきました。

まとめると、こんなかんじです。

ポイント
・本書では過去30年間の統計データから今後の政府のあり方を予測する
・医療・介護・気候変動・インフラ整備の外的要因から政府は大きくならざるをえない、と主張
・これら4分野に財政予算を割くため、ベーシックインカムの実施は現実的ではない、と反論する

この記事が、役立つビジネス書&教養本を探している人の参考になれば、うれしいです。

では、また。