【書評】井上智洋『純粋機械化経済』感想&レビューです。

どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

数年まえから「AI」が話題になっています。

これからも経済・産業・仕事に大きな影響を与えるとされています。

とくにビジネスパーソンにとっては、ひびその流れを注視しておくのが必要です。

そんなとき、つぎの本が目につきました。

井上智洋『純粋機械化経済』


著者は、経済学者であると同時に、AI 技術にも知見のある方です。

本書は、「AI +ロボ」が、経済の生産過程や、個人の働き方をどう変えるかについて述べています。

わりとマクロよりのはなしで、広い視点&長期的な視野にたって、経済の未来をみていきます。

哲学的な話もけっこうあるので、アカデミックなテーマが好きな方にもおすすめ。

「AI +ロボ」がなぜ生まれたのか──その思想的なバックボーンもわかります。

井上智洋『純粋機械化経済』の概要

目次はこんなかんじ。

第1章 AI 時代に日本は逆転できるか
第2章 人工知能はどこまで人間に近づけるか
第3章 人工知能は人々の仕事を奪うか
第4章 技術的失業と格差の経済理論
第5章 新石器時代の大分岐――人類史上最大の愚行はこうして始まった
第6章 工業化時代の大分岐――なぜ中国ではなくイギリスで産業革命が起きたのか
第7章 AI 時代の大分岐――爆発的な経済成長
第8章 AI 時代の国家の役割――中枢を担うのは国家か、プラットフォーム企業か


1〜2章で、AI の現状。

3章〜4章で、よく話題になる「キカイと仕事」のはなし。

5〜7章は、人類の経済史がテーマ。10万年をふりかえり、道具が人間の経済におよぼひた影響について述べていきます。

ちなみに、イチバンの読みどころは、この7章です。

「AI +ロボ」が、イギリスでおきた産業革命と同じように、人類の生産活動に大きな分岐を引きおこすと指摘します。

当選、〝その波〟に乗れる人と、乗れない人に分かれ、格差も生まれます。

ラストの8章で、「AI +ロボ」の文化を生んだ思想的な背景を論じていきます。

井上智洋『純粋機械化経済』で気になったトコ

以下、引用をのせつつ、気になった箇所についてコメントしていきます。

AI で仕事はどうなるか?

フツーの経済学者とはちがい、やはり人間の仕事はなくなると指摘します。

AI の進化で、失業(技術的失業)も十分に、ありうると。

「AIが既存の雇用を奪ったとしても、AIは新たな雇用を生み出すはずだ」というのは、AIによる技術的失業を論じる際の今や決まり文句となっている。〔……〕AIを含むあらゆるITに当てはまることだが、ITが増やす雇用はITが奪う雇用よりも基本的には少ない。経理システムの開発者の人数は、それによって削減される経理係の人数より少ないはずだ。そうでなければ、経理システムを導入するメリットはない。(2406)

この議論は、アメリカの経済学者2人が起こしたのキッカケです。

『機械との競争』


この本の議論について、わかりやすく図を使って説明します。

また、単純なタスクがキカイに置きかわるだけでなく、キカイと補完関係にある仕事にも目をむける必要があります。

職業が消滅するということは、機械とその職業の労働者が代替的な関係にあることを意味する。代替的というのは、バターとマーガリンのように互いに代わりを務めることができる関係を意味する。それに対して補完的というのは、バターとパンのように互いに補う関係のことをいう。経済学者にすら誤解されていることだが、機械と労働者の代替関係のみが技術的失業をもたらすのではない。機械と労働者の関係が補完的である時すらも、技術的失業がもたらされる場合がある。むしろ、補完関係から生じる技術的失業の方がはるかに多い。(2358)

どういうことかといえば、はじめ1つの作業にかける人数が10人とします。

それが、キカイの進歩で2人になったとします。

たしかに作業(タスク)自体は、置きかわっていません。仕事は消滅はしていません。

しかしキカイの進化により、8人が不要になったわけです。

「仕事がなくなる議論」の盲点はここです。

タスク自体はなくなりませんが、雇用は減り、失業を生みだすのです。

労働者が機械を操作して自動車を製造している状況を思い浮かべてほしい。機械は労働者なしには作動しないので、確かに機械と労働者は補完的な関係にある。 当初、1日に6人で1台の自動車を製造していたものとする。ところが、より性能の優れた機械が導入されて、2人で1台製造できるようになったとする。逆にいうと、1人当たりの生産性が3倍に上昇している。これこそが典型的な技術進歩であり、特に、労働節約的技術進歩という。 (2363)

生きのこる仕事

となれると、「どんな仕事が残るんだ?」と反論がきますが、この本では、人間がなすへぎ仕事は3種類になると予想します。

① クリエイティブ(C)
② マネージメント(M)
③ ホスピタリティ(H)

アルファベットの頭文字をとって、「CMH職」としています。

つまり、「創造・経営・もてなし」ということです。

理由は単純で、この3つはキカイにできない or キカイがやっても価値を生みにくいからです。

純粋機械化経済とは?

タイトルとなっている「純粋機械化経済」。

その特徴は、これまで経済を引っぱってきた「工業型の生産構造」と比較すればわかります。

工業型の生産プロセスは、こんなかんじです。

つまり、資本(機械)と労働(人間)が協力して、モノや財を生みだします。

さらに、生産されたモノが機械をつくるために使われ、財が循環するわけです。

機械そのものも工業製品であり、人間の手によって作り出すことができる。アウトプットのうち、家計が消費する以外の部分は投資というが、投資することにより機械(資本)を増やすことができる。そうすると、より多くの工業製品を作り出せる。 このような循環的なプロセスにより、機械(資本)は無際限に増殖し、生産量も無際限に増大していく。これが要するに産業資本主義というものだ。このプロセスは、マルクス経済学では「資本の自己増殖運動」などと言われている。 (3769)

工業型の生産プロセスでは、人間(労働)が携わっています。

いっぽう、「AI +ロボ」が進化する「純粋機械化経済」ではちがいます。

図にすると、こうなります。

「AI +ロボ」の進化により、機械が機械を生みだせるようなります。

つまり、人間(労働)が介さなくても、モノをつくれてしまうわけです。

純粋機械化経済は、IT産業やコンテンツ産業と同様の構造を持つ。設計には頭脳を持った人間が必要だが、追加的な生産は労働者なしに機械によって自動で行われる。(4688)

直接的な生産活動にとって労働がほとんど不必要となる純粋機械化経済は、機械(資本)の限界生産力が逓減しない経済だ。そしてこの経済では、機械(資本)そのものが産出物であり、いくらでも作り出すことができる。 (4708)

純粋機械化経済の対処法

となれば、おそらく、「不要になった労働(人間?)をどうするか」という問題がおこります。

キカイを動かす人(資本家)が、全体のパイを独占する事態がおこるわけです。

そのときはもう、BI (ベーシックインカム)しかないだろう、と主張します。

生活保障をすべてのメンバーにバラまくなんて、いまは非現実的です。

しかし、機械が機械を生みだし、労働が不要になる世界では、合理的な策として検討されるのはまちがいありません。

ちなみに、『Amazon』のJ.ベゾスは、「AI が雇用を奪うこと」を否定せず、対処法として、BI を支持しています。

アマゾンが雇用を奪うことは、CEOのジェフ・ベゾス自身が否定していない。だから、最低限の生活を保証するような制度、ベーシックインカム(BI)が必要だとベゾスは主張している。 (2426)

「AI +ロボ」の歴史的な背景

ラストの8章で、AI テクノロジーをひっぱる IT の思想について指摘します。

この本の見立てでは、「1968年の学生運動」と「カルフォルニアのヒッピー文化」が根っこにあると指摘します。

68 年革命の精神とカリフォルニアン・イデオロギーの共通の特徴は、「創造的破壊」にある。 68 年革命が創造しようとしたものは、少なくとも当時は明確ではなかった。破壊しようとしたのは、伝統的な文化や慣習、官僚主義、資本主義的な価値観だった。 今日ハッカーが創造しているのは、ネットサービスやスマホ、様々なソフトウェアだ。破壊しているのは、紙の雑誌や新聞、本を読む習慣であり、街の小売店であり、アメリカの中間層である (5228)

日本の学生運動は〝お祭り〟で終わったが、アメリカでは事情がちがいました。

ヒッピーや学生運動家の一部はハッカーとなって、ジーンズの着用が許される堅苦しくないコンピュータ会社やゲーム会社に就職したり、自ら起業したりしてモラトリアムを延長し、密かに革命を継続していた。(5235)

既成の概念をぶっ壊すような新しいITを創造して、世の人々をあっと驚かせるような商品を世に送り出す革命だ。その商品とは、マッキントッシュやウィンドウズ、アイフォン等々である。 (5245)

つまり、かれらのなかでは「革命」の考えが、カラダのなかに残っている。

ただし、資本主義体制をひっくり返せ、国家を破壊しろ、とアンチな態度をとるわけではない。

テクノロジーを進化をおしすすめ、情報のあり方をかえる。

さらに、AI の爆発的は進化を狙っていて、ついには人類の知性を越えよう(シンギュラリティ)としているわけです。

1968年の精神を半ば継承したサイバー・リバタリアンたちの革命的な反乱は鎮圧されることなく、伝統的な権威主義に対し完全に勝利した。売り上げの面でも時価総額の面でも。 今や革命は、ある日ある場所で起こる武装蜂起なんかではなく、日々の絶えざる技術革新によって引き起こされる永久革命だ。無限に続く資本主義的発展こそがすなわち革命なのである。(5267)

成し遂げるかは不明です。

しかし、IT エンジニア(ハッカー)の動機づけ、つまり、いったい、なにを目指して、AI を進化させているのかが分かるだけでも、参考になります。

おわりに

たんに AI 技術の説明にとどまらず、長期的にみて、経済にどんな影響を与えるかを論じています。

その点で、ほかの「AI 本」と一線を画します。

経済史・文明史の視点から AI を読みとくあたりも、知的好奇心を刺激され、いい感じですに仕上がっています。

もちろん思想的なはなしより、実務的な内容が好きな人がいるでしょうが、広い視野から、「AI +ロボ」を考えるのも大事です。

それくらいインパクトのある技術ですからね。

言葉つがいもムズかしくないので、高校生以上なら読めると思います。

ビジネスパーソンはもちろん、これから世の中に出る人にもおすすめの1冊です。

よければチェックしてみてください。

ではまた〜。