【書評】A.アグラワル, J.ガンズ『予測マシンの世紀』感想&レビューです。

どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

数年まえから AI の議論が盛り上がってますね。

これからの経済にも大きなインパクトを与えるとされています。

そんなとき、つぎの本が目につきました。

A.アグラワル, J.ガンズ『予測マシンの世紀』


著者の2人は、経済学者であると同時に、AI 開発の研究者。

両方の知見を活かして、AI が経済におよぼす影響を述べていきます。

AI には、さまざまな機能がありますが、2人が注目するのは「予測」。

人工知能の発達により、「予測のコスト」が下がり、日常生活や製造プロセスに大きな影響をあたえるとしています。

「キカイは人間を超える」など、AI 関連の本は、夢物語になる傾向があります。

しかしこの本は、経済学者らしく〝醒めた視点〟で AI をとらえます。

「予測のコストが下がる」という事態を軸に、産業・仕事・組織が、どう変化していくらかをみていきます。

現実的に「AI + ロボ」を理解したい人にはおすすめの1冊です。

A.アグラワル, J.ガンズ『予測マシンの世紀』の概要

目次は、こんなかんじです。

はじめに──機械知能
第1部 予測
第2部 意思決定
第3部 ツール
第4部 戦略
第5部 社会


第一部で、経済(市場)における「予測」の意味と役割を述べていきます。

予測のコストが下がる背景や、これから「予測」の性能を高めるためには、どのような種類のデータが大切になるかを指摘します。

第二章では、「予測」のコストが下がったあとの人間の役割について。

AI 発達にともない「予測ツール」が広まれば、よりいっそう人間には決断や判断が求められる。

労働市場において価値の差が出るとしたら、「決断・判断の良し悪し」であり、教育やスキルも、この点にスポットをあてるべきと指摘する。

第三部は、「予測ツール」の中身と、業務のあり方の変化。

第四部では、じっさいに業務に導入するときのコツや注意点について。

パソコンを導入しても、かならずしも生産性がアップするわけではない──。

その例と比較しつつ、タスクとコストがアタマにいれておかないと、AI を導入したところで、さほど市場の拡大に寄与しないことを指摘する。

ラストの五部で、キカイによる「予測」があたりまえになった社会のようすについて述べていく。

A.アグラワル, J.ガンズ『予測マシンの世紀』で気になったトコ

以下、引用をのせつつ、気になった箇所についてコメントしていきます。

AI は予測のコストを下げる

経済学では「コストが下がる傾向」は、とっても大事。

インターネットは、「検索」「コミュケーション」にかけるコストを下げた。

それにより、生活が変化し、『google』などの巨大な企業が生まれた。

インターネットの台頭は、流通やコミュニケーションや検索のコスト低下につながったのだ。したがって、テクノロジーの進歩は高価なものから安価なものへのシフト、不足状態から飽和状態へのシフトとしてとらえ直すべきであり、あなたのビジネスにおよぼす影響を考えるためにもそれが欠かせない。(0251)

経済学者の視点では、グーグルは検索の費用を低下させただけである。そして検索費用が安くなると、ほかの手段(電話帳、旅行代理店、求人広告など)を使った情報検索が収入源だった企業は、競争に関して危機的状況に置かれた。その一方、誰かに見つけてもらうことが必要な人たち(たとえば本を自費出版する人、埋もれている収集品を売りたい人、映画を自主制作した人など)は商売が繁盛した。(0273)

AI によって、何のコストが下がるのか。それは「予測」。

「予測」の費用がダウンすることで、生活・産業・組織において、さまざまな影響が出てくる。

新しいAI技術によって何が安くなるのだろう。それは 予測 だ。経済学者が語るように、私たちは以前よりもたくさんの予測を使い始めるだけでなく、意外なところで予測が新しく使われる場面を目撃するようになるだろう(0316)

最初の段階では、予測マシンは人間を厄介な予測作業から解放し、コストの節約に貢献する。やがて機械の性能が向上するにしたがい、予測の方法は変化を遂げ、意思決定の質も改善される。そしてある時点で、予測マシンの精度も信頼性も十分になると、組織が物事を実行する方法にまで変化が生じる。なかには企業の経済的側面に劇的な影響をおよぼすAIもある。戦略の実行を支える生産性を向上させるためだけではなく、戦略そのものを変化させるためにAIが使われるようになるのだ。(0368)

AI というと「革新性」ばかりピックアップされて、想像だけで終わりますが、「予測」にフォーカスをあてて論じると、わかりやすいですね。

未来の見通しが、立ちやすくなります。

予測とは?

予測(prediction)の語源であるラテン語の動詞「praedicere」は、「予め知らせる」という意味だが、私たちの文化では予測という言葉を理解する際、過去、現在、未来を問わず、隠れた情報を明らかにする能力である点が強調される。(0498)

予測とは、欠落している情報を補充するプロセスである。予測においては、しばしば「データ」と呼ばれる手持ちの情報に基づいて、新たな情報を生み出していく。(0503)

「予測」と「データ」のカンケーをみたあと、ビジネスにあたえる「予測」の影響を述べていきます。

具体例として、クレジットカードの審査・発行をあげます。

予測とは欠落している情報を埋め合わせるプロセスだという私たちの定義は、ビジネスに応用しやすい。クレジットカードの最近の取引が違法かどうか予測によってわかれば、クレジットカードネットワークには好都合だ。クレジットカードネットワークは過去の違法な(そして違法ではない)取引についての情報を利用しながら、最近行なわれた特定の取引が違法かどうかを予測する。違法だと判断した場合には、クレジットカード業者はそのカードを使った今後の取引を停止できる。予測が迅速ならば、現在進行中の取引さえ停止することが可能だ。(0521)

ふだん気にしませんが、こんなふうに「予測」はあらゆる場面で行われています。

いまはたいていの予測を、人間(の知能)担っていますが、これが今後、キカイが代替することになります。

じつは AI が重要な理由はココです。

現代のAIが予測するだけなら、なぜこれほど大騒ぎされるのだろう。なぜなら、予測はきわめて基本的な入力情報だからだ。あなたは気づいていないかもしれないが、予測はいたるところで行なわれている。ビジネスも私生活も予測だらけだ。しかも予測は往々にして、意思決定を支える入力情報として隠されている。予測が改善すれば情報が改善し、ひいては意思決定が改善する。(0607)

予測コストが下がると、『amazon』はどう変わる?

予想コストが下がると、具体的にビジネスモデルはどう変化するのか?

『amazon』の配送サービスでは、こうなる。

AIの予測精度はある時点で 閾値 を超え、アマゾンのビジネスモデルに変化が引き起こされる。予測の精度が十分に高まれば、注文を受けるまで待っているより、顧客がほしがっていることが予測された時点で商品を送るほうが利益につながる。

注文しなくても製品が送られてくれば、あなたはほかの小売業者を訪問する必要がなくなる。そして手元に届けられた商品に刺激され、もっと買い物をしたい気分になるかもしれない。こうしてアマゾンの顧客内シェアは高くなるり(0386)

納得の予想です。

もちろん『amazon』側だけでなく、わたしたちの暮らしも、より便利になります。

当然ながら、これはアマゾンにとって素晴らしいが、あなたにとっても素晴らしい。アマゾンは買い物する前に出荷してくれるのだから、万事がうまくいけば、買い物の手間はすっかり省略される。ダイアルを回して予測の精度を上げれば、アマゾンのビジネスモデルが変化して、「ショッピング・ゼン・シッピング」から「シッピング・ゼン・ショッピング(商品発送後に購入する)」へと移行するのだ。(386)

刺激的ですよね。

予想コストが下がれば、ネットショッピングでは「選ぶ手間」がなくなります。

あなたに最適な商品が、自動的に郵送され、高い確率で購入する流れになります。

すごいなぁ。

予想コストが下がったあとの人間の役割

予測そのものに関しては、概して予測マシンのほうが人間よりも優れていることは間違いない。人間に代わって予測マシンが登場する場面が増えてくると、人間による予測の価値は減少する。しかし、いかなる決断においても予測は中心的な要素ではあっても、唯一の構成要素ではないことを忘れてはいけない。そして決断を構成するほかの要素──判断、データ、行動──は、現時点では間違いなく人間の得意な領域である。予測の補完材であって、予測が安上がりになるにつれてその価値は増加する。(1441)

「予想」がキカイに任されるとすれば、人間がなすべきことは、「判断」「データの提供」「行動」です。

この予想も納得ですね。

つまり、キカイにくらべて、人間が市場価値を高めるには、「キカイを利用した判断」「キカイにはできない行動」しかないわけです。

予測マシンは判断を提供しない。判断するのは人間だけだ。人間だけが、異なる行動をとった場合に得られる報酬の違いを相対的に比較できる。AIが予測する機会が増えると、人間は従来のように予測と判断を組み合わせて意思決定を行なう代わりに、判断する役割に専念するようになる。その結果、機械による予測と人間による判断が相互に作用し合うインターフェースが実現する。〔……〕予測が改善されると、様々な行動から得られる報酬について考慮する機会が増える。言い換えれば、判断する機会が増えることになる。つまり、優れた予測がスピーディーかつ安上がりに行なわれるようになるほど、私たちは多くの決断を下すようになるのだ。(1550)

労働におよぼす影響は、AIの導入によって人間の判断の重要性が高まることのほうが大きい。予測と判断は補完し合うのだから、予測の精度が高まれば判断が必要とされる機会は当然ながら増える。(3236)

それにともない、予測以外のスキルに差がついて、賃金格差も生じていきそうです。

決断についての分析からは、新たな仕事がどこで誕生するか推測できる。今後、人間とAIは協力して働く可能性が高く、人間はAIの予測を補足して、データ、判断、行動の分野で活躍するだろう。たとえば予測が安上がりになれば、判断の価値は高くなる。そうなれば、報酬関数の設計に関わる仕事の数は増えることが予想される。〔……〕一方、判断が関わる仕事のなかには、広く普及するけれども、AIに代替される仕事ほど高度なスキルを必要としないものもあるだろう。今日、高い報酬を得られるキャリアの多くでは予測が中心的なスキルになっている。医者、金融アナリスト、弁護士などだ。しかし、予測マシンが道案内をするようになった結果、報酬の高いロンドンのタクシー運転手の収入は減少し、報酬の低いウーバーのドライバーの人数が増えたのと同じ現象が、医療や金融で進行すると見られる。タスクのなかで予測の部分が自動化されれば、判断に関わるスキルが注目され、より多くの人がこれらの仕事に参入するようになるだろう。予測がもはや大きな制約でなくなれば、一般的かつ補完的なスキルの需要は高くなる。したがって、雇用は拡大するが賃金は低下するかもしれない。(4005)

おそらく、より「感情的(エモーショナルな)」行為しか、価値はつかなくなってきそうです。

たとえば、介護や保育でも、同じ行為でも、ロボットよりも人間にしてほしい場面があります。

この事態はますます進行しそうです。

子どもと遊ぶとき、お年寄りの世話をするときなど、社会的交流が関わる行動の多くは、行動の実行者が人間のときのほうが本質的に良い結果につながる。子どもの教育のためにどんな情報を提供すべきか機械がわかっていても、時にはその情報を人間が伝えるほうが最善の結果が得られる。時が経てば、ロボットがお年寄りの世話や子育てに参加する状況を受け入れやすくなり、ロボットが競い合うスポーツを観戦して楽しむようになるかもしれない。しかしいまのところ、人間はロボットではなく人間に行動してもらいたい。(2258)

AI に置きかわるのは、職業ではなく「課題(タスク)」

AI の議論で、キカイに仕事が置きかわる、みたいな話があります。

しかし、AI に置きかわるのは、職業ではなく、個別の業務や課題(タスク)です。

仕事全体が奪われることはありません。

機械がすべてのタスクではなく、一部のタスクを引き受けて仕事が強化されるシナリオは、AIツールが導入されれば自然に普及していくだろう。今後、仕事を構成するタスクは変化する。なかには予測マシンによって不要になるタスクもあるだろう。空き時間のできた人たちが補充されるタスクもあるはずだ。そして多くのタスクでは、かつては必要不可欠だったスキルが評価されなくなり、代わりに新しいスキルが注目される。簿記係が表計算ソフトを魔法使いのように操るようになったのと同じく、AIツールのおかげで広範囲にわたって様々な仕事が再編され、同じように劇的な効果がもたらされるだろう。 (2647)

著者の2人は、仕事においては楽観的にみています。

職業が奪われる、というより、職業のなかのタスクが自動化されることで、〝ういた時間〟で、ほかの作業に集中できるとしています。

それにより、新しい仕事やサービスが生まれる可能性があります。

「スクールバスの運転手」と呼ばれる人物が、子どもの自宅と学校を往復するバスの運転をしなくなったら、給料を支払う必要のなくなった自治体はそのぶんを別の支出にまわすべきなのだろうか。いや、そうはならない。バスが自動運転になったとしても、現在のスクールバスの運転手は運転のほかにもたくさんの役割を引き受けている。まず彼らには、大人として大勢の学童の集団を監督する責任があり、バスの外で発生する危険から子どもたちを守らなければならない。同じように重要な役割が、バスのなかの規律を維持することだ。子どもたちを管理して、お互いにトラブルを起こさないよう配慮するためには、人間の判断が未だに必要とされる。バスが自動的に動いても、こうした補足的なタスクが消滅するわけではない。むしろ、バスに同乗している大人はこれらのタスクにもっと集中できるようになる。(2812)

するどい指摘です。

個人的には「AI で仕事が奪われる論」には懐疑的だったので、この説明は、かなり納得しました。

おわりに

AI によって「予想コストが下がり」、生活・仕事・組織に、さまざまな影響が出る──。

一貫した議論で、とてもわかりやすい内容になっています。

AI によって経済・市場がどうかわるのか?

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よければチェックしてみてください。