どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。
大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。
社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。
働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。
働くなかで思うのは、自分の市場価値をアップするには「教養」が大切だということ。
・深くものごとを考えられる
こういう人たちは、キホン、教養を身につけています。
教養とは、なにか ─ それは、歴史と古典です。
なかでも、文学作品の古典は、王道といえます。
わたしも、計300冊以上は、読んできました。
きょうは、
を紹介していきます。
ディケンズは、近代ヨーロッパ期の人物。
『クリスマスキャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』などの作品でも有名です。
下流〜中流階級の生活をメインに、弱者・子供の視点から、人物・心理・社会を描きました。
かれの魅力は、なんといってもストーリー構成です。いったん読んだら、抜け出せません。
今回、わたしも、久しぶりに再読してみたんですが、わずか3日で読み終えてしまいました。
それだけ〝ひきのつよい〟作家さんです。
エンタメとしてもおもしろいですが、文学作品としても第一級です。
じっさい、ドストエフスキーやプルーストなどにも、影響を与えています。
とはいえ、小むずかしいことは考えず、楽しんでページをめくるのがコツです。
…
翻訳については、石塚訳が、挿絵(アメリカ版)も豊富で、手ごろだと思います。
けれど、読みやすさでいえば、日高訳がおすすめ。
わたしもこちらで読みました。
以後、引用番号も、うえ2冊によります。
難点は、kindle 版しかないことでしょうか。
もともとは、中公バックス「世界の文学」シリーズに収録されていたもの。
だいぶまえに出版されましたが、いま出ている翻訳のなかでは、イチバンの読みやすさです。
書店 or Amazonの「サンプル」などで、自分なりにチェックしてみてください。
目次
ディケンズ『大いなる遺産』の概要
両親を亡くし、姉夫婦のもとで暮らす、少年「ピップ」 ─ 。
鍛冶屋をいとなむ夫妻ですが、生活はラクではありません。
ジャマ者のかれは、義姉の暴力をうけながら、きびしい環境で育ちます。
このあたりの設定は、ディケンズではおなじみです。
…
ちかく湿地帯を歩いていると、見知らぬ男におそわれます。
男は、脱獄犯 ─ 。ヒップに、食料と、手錠を引き裂くためのヤスリをもってくるよう、おどします。
求めに応じたヒップですが、囚人をたすけた罪に、ずっと悩まされます。
あるとき、町の富豪「ハヴィシャム夫人」に招かれます。
かなしいカコを背負い、歪んだ性格の夫人ですが、ヒップを付き合いをこなしていきます。
しばらくたったとき、とつぜんヒップは、差出人不明の相手から、「莫大な遺産」を譲りうけます。
夫人からの「遺産」だと確信するピップ ─ 。
ここから物語が、展開していきます。
目次・構成
ストーリーの設定は、こんなかんじです。
これだけでも惹きつけられますよね。
目次・構成ですが、全部で59章 ─ 。
うえにあげた翻訳では、3部に分かれていますが、原初では「セクション」はふれられていないそうです。
ディケンズ『大いなる遺産』の詳細
以下、気になったトコをあげてみます。
プロット ─ たくみなフクセン
ディケンズの魅力は、なんといっても、たくみなプロット・構成です。
『大いなる遺産』も例外ではありません。
なにげないシーンでも、ストーリーのフクセンになっています。
その意味では、ムダなトコは、ほぼありません。
イジメ抜かれる → 莫大な遺産をもらう
冒頭からして、工夫がほどこされています。
立場が弱く・貧しい子ども ─ ディケンズおなじみのモチーフですが、「遺産」をもらうことで、境遇が一変します。
それまで読み手は、これでもかと〝いじめ抜かれるシーン〟を目にします。
立場が「逆転」することで、読者を一気にストーリーに引き込むわけです。
差出人不明の遺産 → 犯罪者からの遺産
・富豪「ハヴィシャム夫人」との交流
も、フクセンとなっています。
読み手もふくめ、主人公「ピップ」は、譲りうけた「遺産」が、すっかり「ハヴィシャム夫人」からのものと思いこみます。
さらに、ハヴィシャム夫人には、美人の養子「エステラ」がいました。
魅了されたピップは、将来、かのじょと結婚できると希望をいだくわけです。
しかし「遺産」の差出人は、夫人ではなく、少年時代に助けた「囚人」だとわかります。
このときピップは、遺産をもとに「富裕層=紳士」の立場を築いていました。
みずからの地位は、犯罪者のカネで成り立っていた ─ 。
〔囚人のセリフ〕「わしはおまえに恩を着せようと思って、こんなことを言ってるのか、だって? とんでもない! わしがこんなことを言うのは、おまえが助けてやった追われたやくざ犬が、立派にちゃんと一人立ちして、一人の紳士を作り上げることができたってことを知ってもらいたかったからだ。その紳士というのは、ピップ、おまえなんだ!」(下・no.1,525)
カコがくずれさり、未来の希望が失われます。
「ハヴィシャム夫人」の遺産ではないことから、エステラとの結婚への期待もなくなります。
ハヴィシャムさんが私のために何か取りはからってくれる ─ そんなのは一つのはかない夢にすぎない。エステラは私の未来の相手ではなかったのだ。(下・no.1,614)
ちなみに、タイトル『大いなる遺産』の原題は、〝Great Expectations〟─ 。
文字どおり、「過大な期待」(≒ 期待はずれ)とも読めます。
ディケンズは、2つの意味をこめているわけです。
こういうところから、たくみな構成がわかると思います。
さらに、ここから、
・囚人〔=プロヴィス〕は、なぜピップに大金をわたし、紳士にしようと思ったのか
などなどが、あきらかになっていくわけです。
先を読まずには、いられませんね。
描写
ディケンズといえば、プロット・構成が評価されがちです。
けれど個人的には、自然描写・人物描写も、「うまいなぁ」と思います。
ハヴィシャム夫人の屋敷
たとえば、かなしい過去を背負い、まわりとのやり取りを断つ「ハヴィシャム夫人」 ─ 。
じかに心情をしめす表現もありますが、かのじょが暮らす家の描写によって、孤立・孤独をあきらかにします。
この不思議な屋敷では、時計の停止が〈時〉の流れまでもとめてしまい、私も、屋敷の外のものも、すべて年をとっていくのに、〈時〉だけがぴったり止まっているような気がした。(上・no.2914)
ジョーの見送りシーン
さらに、遺産をもらい、お金持ちになった「ピップ」が、いなかから「ロンドン」へ旅立つシーン ─ 。
義姉がイジめるいっぽう、夫「ジョー」は、友だちのように、やさしく接していました。
そんな〝親友〟との別れは、こんなかんじです。
開け放たれた窓のほうに目をやると、ジョーのパイプの煙がゆるやかな環を描いて、ゆっくりとたち上ってきた。私にはその煙の環が、私に対するジョーの祝福 ─ 私に押しつけるでもなく、華やかに並べたてるでもなく、私たち二人をともに柔らかく包んでいる大気に滲みこませた祝福のように受け取られた。(no.3421)
感覚はいろいろですが、個人的には、じんわりきました。
格言・思想
ディケンズは、「思想のない作家」といわれます。
たしかに、ドストエフスキー or プルーストのように、〝哲学ちっく〟はすくない。
とはいえ、どこかで引用したい格言は、いくつもあります。
たとえば、「誠実さ」については、
いくらニスを厚く塗ったって、木のもく目はごまかせない。ニスを塗れば塗るほど、もく目はますますはっきり出てくるもの。(上・no.4168)
ほかにも、「人間関係」については、
〔……〕だいたい人間というものは、その一生を通じて、自分が一番軽蔑している人間のために、最大の弱点や、もっとも卑劣な本性をさらけ出してしまうものなのだ。(上・no.5004)
さらに、「人生の悩み・不幸」については、
〔エステラのセリフ〕「ほかのいろんな教えよりも、私が実際に味わった悩みによって、むかしのあなたのほんとうの心が理解できているこの今ですよ。私はね、曲げられて打ちこわされたの ─ でも、多分以前よりすこしはいい形になったと思うの。(下・no.5531)
ながい文章で、ふかく考察する表現はありません。
けれど、カンケツで、ビシッと真実をつくコトバに、あふれています。
このあたりも、ディケンズ作品を読むポイントですね。
おわりに
ディケンズ『大いなる遺産』をみてきました。
近代の古典文学において、ディケンズ作品は、はずせません。
とはいえ、ムズかしくなく、たのしんで読めます。
気楽なキモチで、手にとってほしいと思います。
よければ、チェックしてみてください。
ではまた〜。