チェーホフ『白鳥の歌』感想&レビューです。

どうも、コント作家のりきぞうです。

きょうも、コント作品をレビューしていきます。

取りあげるのは、チェーホフ『白鳥の歌』。

初期の作品です。

以下、ストーリーの大枠をみたあと、笑いのポイントをあげていきます。

ちなみに、松下訳で読みました。

以下、引用のページ番号は、うえの文献によります。

ストーリーの大まかな流れ

人物

スヴェトロヴィードフ……高齢の喜劇役者
イワーヌイチ……劇場のスタッフ

場所

田舎の劇場

あらすじ

芝居のあと、楽屋で眠りこけてしまった喜劇役者スヴェトロヴィードフ。

真夜中に目がさめ、ひとり舞台にあがる。

観客もスタッフもいないステージ。

トシは68歳。

のこりわずかな人生を考えはじめ、むなしさと恐怖をおぼえる。

そこに残っていたスタッフのイワーヌイチがやってくる。

こっそり寝泊まりしているようす。

さっさとスヴェトロヴィードフに帰ってほしい彼。

けれど、はなし相手ができた喜劇役者は、過去の栄光を自慢しはじまる。

老人なのに青年ハムレットのセリフを語りだし、まだまだ若いところをアピールする。

なかなか帰らない老いぼれ役者。

テキトーにあしらいながら、イワーヌイチは早く帰らせようとするが……。

ひとこと

ひと幕、ふたつのシーンの喜劇。

長さとしてはコント or ヴォードビルくらいです。

いまの自分をなげき、待ち受ける死をおそれるスヴェトロヴィードフ。

もうひと眠りしたい雰囲気のイワーヌイチ。

対照的なふたりのキモチ。

シリアス/テキトーのコントラストが、笑いをさそい、ストーリーをひっぱっていきます。

たとえば、こんなシーン。

スヴェトロヴィードフ  (……)まえには感じもしなかったが、きょう……目がさめて、ふとふり返ってみると、おれはもう68だよ。たった今、年取ったことに気づいたんだ! 歌はうたってしまったんだよ! (すすり泣く)歌はうたってしまったんだ!

イワーヌイチ  (……)ねえ、旦那。まぁ、落ちつきなさってくださいまし……。弱ったなぁ!

(p.12-13)

チェーホフ作品では、ペーソス(哀しみ)の要素が、カギとなります。

「老い」にかぎらず、失恋や失職など、さまざまな喪失をとりあげ、ストーリーをすすめていきます。

不幸ばなしはチープになりがちです。

けれど、笑いばなしにかえることで、奥ぶかい作品にしていきます。

ユーモアとペーソスの絶妙なバランスが、チェーホフの持ち味ですね。

笑いのポイント

笑いのポイントをみていきます。

コントや喜劇で大事なのは、キャラクターとプロット。

この作品ではプロットに注目してみます。

コントのプロットはとてもシンプル。

[設定 → 展開 → オチ]がキホンのながれ。

コントの書き方 ─ プロットの構成について

なかでも「展開」が、作品の良し悪しを決めるんだけど、これにも「型」があります。

パターンは「反転」「逆転」「交錯」の3つです。

コントの書き方 ─ プロットの展開について

ストーリーを整理して、パターンをあてはめてみてると、構図は「反復」だとわかります。

「反復」では、状況や環境が変わっても、それまでと同じアクション、セリフ、出来事をくりかえすようすを描きます。

それによって笑いを引き起こします。

この作品でも、スヴェトロヴィードフが、いまの自分をなげきつづけます。

芝居は終わり、舞台はまっくらになっているのに、過去の栄光を思いかえしながら、ハムレットのセリフや、作家プーシキンの詩を大声でさけぶ。

状況・環境がかわってもなお、同じふるまいをくりかえす。

この反復が笑いをもたらします。

図にするとこんな感じ。

構図 ─ 反復
スヴェトロヴィードフ=演技をする

・観客・スタッフのいない劇場
・裏方のイワーヌイチが、帰るようせかす

スヴェトロヴィードフ=演技をする

劇場&舞台には、お客さんはひとりもいません。

舞台スタッフの「イワーヌイチ」も、けむたがり、それとなく帰ってほしいそぶりみせます。

にもかかわらず、スヴェトロヴィードフは、演技をつづけ、過去の栄光にすがる。

このくりかえしが、笑いをおこします。

どこか〝しみじみ〟とさせながら、くすっとした笑いをさそう。

チェーホフらしい作品です。

まとめ

こんなふうに、プロットに注目してみていくと、よりいっそうコントを楽しめます。

ほかの作品でも、こんな視点に立って作品で観ています。

ちがう記事ものぞいてみてください。

ではまた。

よきコントライフを〜。