バルザック『ゴリオ爺さん』感想&レビューです。

どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。

大学院では、キャリア論と社会保障を研究していました。

社会人なってからは、予備校講師 → ウェブディレクター → ライターと、いろんな職業にたずさわってきました。

働き方についても、契約社員 → 正社員 → フリーランスと、ひと通り経験してきました。

働くなかで思うのは、自分の市場価値をアップするには「教養」が大切だということ。

・良いアイデアを出せる
・深くものごとを考えられる

こういう人たちは、キホン、教養を身につけています。

教養とは、なにか ─ それは、歴史と古典です。

なかでも、文学作品の古典は、王道といえます。

わたしも、計300冊以上は、読んできました。

きょうは、

バルザック『ゴリオ爺さん』

を紹介していきます。

バルザックは、近代ヨーロッパ期の人物。

1800年代、フランスのパリ&郊外を舞台にした、小説を書きました。

『人間喜劇』と称して、世の中に存在する、あらゆる「人物」「場面」「思想」を描くことに生涯をささげました。

短編・長編をあわせて、約90作品を執筆しました。

『ゴリオ爺さん』も、そのうちのひとつです。

いきおいのある文体で、ぐいぐい読み手を引っぱっていきます。

一度ハマれば、抜け出すのがたいへん ─ それくらい魅力の作品です。

また、ト書きに記される描写は、哲学ちっくで、格言とても通用します。

このあたりも読みどころです。

翻訳もたくさん出ています。

個人的には、中村訳がおすすめです。

海外の本ではなく、日本の小説を読んでいるようなナチュラルさです。

以下、引用番号も、こちらの本によります。

バルザック『ゴリオ爺さん』の概要

4章で構成されます。

目次は、こんなかんじです

第1章 ヴォケール館
第2章 社交界デビュー
第3章 トロンプ=ラ=モール/死神の手を免れた男
第4章 爺さんの死

下宿アパート「ヴォルケール館」にくらす住人たちのおはなしです。

主人公は、大学生「ラスチニャック」と、資産家「ゴリオ爺さん」のふたり。

ラスチニャックは、パリで成り上がりを目指す若者。

ゴリオは、商売で稼いだ金を、すべて2人のむすめにつぎ込んでいます。

けれど、社交界に生きる2人は、父親をむげにあつかいます。

それでも、自分の生活レベルを落としてまで、貴族のあいだで生きる娘たちに、お金を渡しつづけます。

そんなとき、ゴリオのむすめ「デルフィーヌ」と知りあうことになった、ラスチニャック。

出世の階段をあがるため、夫人と愛人関係をむすびます。

いっぽう、40過ぎの住人「ヴォートラン」から、たんまり持参金の入る、結婚ばなしをもちかけられます。

しかしそれは、どこか詐欺まがいで、犯罪のニオイが。

地位向上のため、ラスチニャックは、どちらを選択すべきか、悩みますが……。

以上が、大まかなあらすじです。

見どころは、

・出世に悩む、ラスチニャックの葛藤

・過剰にむすめを保護する、ゴリオの狂気

です。

いっぽう、ラスチニャックの良心をゆさぶる、悪役「ヴォートラン」も魅力的です。

バルザック『ゴリオ爺さん』の詳細

以下、気になったトコをあげてみます。

心情

主人公といっしょに、こころの揺れ動きをあじわえるのが、この作品のすばらしいトコです。

たとえば、ラスチニャック ─ 。

かれは、ゴリオからむすめとの結婚をすすめられ、〝まっとうに〟出世の道を歩もうとします。

いっぽうで、ヴォートランから、犯罪(殺人)をつうじて、莫大な遺産を手にするはなしを、もちかけられます。

善 / 悪をいったりきたり ─ 良心をぐらつかせながら、どちらをとるか、悩みつづけます。

ウジェーヌ〔ラスチニャック〕は良心と闘い、自分が悪事を働いている、それも自分から進んで働いているのを自覚し、結果的に女がひとり幸せになるなら、この罪は帳消しになるはずだと自分に言い聞かせる。(no.3783)

「おれは人生を通して正直な人間でいよう。おのれの良心の声に従うのは気持ちがいいものだ」(no.3,279)

こんなふうに、じぶんを鼓舞(こぶ)しながら、ヴォートランの誘惑から、抜け出そうとします。

ゴリオの心情

ラスチニャックの葛藤(心的ジレンマ)を味わえるいっぽう、ゴリオの狂気も、これまた魅力です。

過剰な父性愛でもって、貴族・資産家にとついだ、ふたりのむすめを支援するゴリオ ─ 。

けれどふたりは、カネだけを〝むしりとって〟、父の愛にこたえません。

それでも、むすめに愛されたいばかりに、ボロキレを着たまま、ゴリオは大金を渡しつづけます。

狂気に等しいですが、あまりの父性愛に、思わず笑ってしまうほどです。

たとえば、ケンカするふたりのむすめ(姉妹)を止めに入るゴリオ。

しかし長女からは、こんな態度をとられます。

ゴリオ爺さんは、すかさずあいだに入って、伯爵夫人〔長女〕を制し、しゃべらせまいとその口を手でふさいだ。

「いやだ、お父さん、今朝なにを触ったの?」

「ああ、そうかそうか! ふむ、悪かったね」可哀想な父親はズボンで手を拭いながら言った。(no.5212)

むすめにカネは渡すために、汚い服装をしているのに、こんな仕打ちをうけてしまいます。

それでも、父性愛いっぱいのゴリオ ─ 。

むすめの幸せのためなら、外でなにがあろうと、おかまいなしです。

たとえ、自分のアパートで「殺人犯」がつかまっても。

「ここでなにがあったか知らないんですか?」ウジェーヌが老人に言った。「ヴォートランは脱獄囚だったんです。警察に連行されました。それからタイユフェールの子息が死にました」

「へえ、だからなんです? 我々に関係ありますか?」ゴリオ爺さんが答えた。「わたしは娘と食事するんです、あなたの新居でね。聞こえましたか? あの子があなたを待っています。来てください!」(no.4525)

笑えるほどの狂気ですね。

それでもさいごは、甘やかしつづけた、おのれの過ちに気づきます。

つぎのセリフは、ほろりとさせます。

「可愛い天使たち」ゴリオ爺さんが弱々しい声で言った。「どうして、おまえたちは不幸にならないと仲良くできないのだろう」(no.5110)

「おまえたちが顔を見せるのは、苦しいときだけだ。おまえたちはわたしに涙しか見せてくれない」(no.5114)

格言

葛藤・狂気を描くほか、ト書きや会話で記される、格言も魅力です。

とくに、パリ or 社交界で生きるためのアドバイスが、良いですね。

〔ヴォートラン〕「いいかね、パリでは女性の本音なんて探ろうものなら、恋人より先に、高利貸しが出てきちまうぜ」(no.922)

パリでは誰のものでもない女に出会うのは実に至難の業であり、そうした花形を陥落させるのは、血よりも高い代価がいることを理解した。(no.1353)

〔貴婦人〕「好きになれそうなら、あとから愛してやりなさい。好きになれないときは、ただ利用なさい」(no.1661)

彼女の行動は計算ずくか? そうではない。女性というものは大きな欺瞞の只中にありながらも、つねに誠実なのだ。(no.3387)

女性・恋愛についてのアドバイスは、どれも過酷です(笑)

また、人生全般にかんするアドバイスも、なかなか〝ピリッ〟としています。

〔ヴォートラン〕「原理なんてない。あるのは事態だけだ。法則なんてない。あるのは状況だけなんだ」(no.2,462)

〔ヴォートラン〕「〔キリスト教について〕過ちを悔い改めなさいとか言うがね。後悔のお祈りをすれば 赦されるなんてな、世の中にはステキなシステムがあったもんだ!」(no.2488)

「広大な環境で生きようが、ほんの小さな輪の中で生きようが、人間の感情の満たされかたは同じさ」 (no.3172)

「お金というのは、愛がなくなって初めて重さを持ち始めるのです」(no.3172)

どれも、胸にとめておきたい言葉ですね。

おわりに

バルザック『ゴリオ爺さん』をみてきました。

近代の古典文学において、バルザックの作品は、はずせません。

とはいえ、ムズかしくなく、たのしんで読めます。

気楽なキモチで、手にとってほしいと思います。

よければ、チェックしてみてください。

ではまた〜。