どうも、りきぞう(@rikizoamaya)です。
大学院では、キャリア論と社会保障について研究していました。
いまでも、この分野の本を、月10冊以上チェックし、知識をストックしています。
数年まえから 、仕事にたいするAIの影響が話題になってますね。
よくある「あおり」(?)は、キカイによって人間の労働が奪われる、というはなしです。
未来はどうなるかわかりませんが、とはいえそのまえに、AI とはなにか、客観的にみて、どこまで進歩しているのかを理解しておくのも大切です。
そんななか、先日、松尾豊『人工知能は人間を超えるか』を読みました。
著者は、日本における人工知能研究の第一人者です。
メディアでの露出も多く、AI とビジネスのカンケーについても詳しい方です。
「自分の仕事がAIに取られてしまうんじゃないか……」とビビるまえに、研究者による現状把握を知りつつ、これからどのようにAIとつき合っていくのか、冷静に判断してみましょう。
目次
松尾豊『人工知能は人間を超えるか』の概要
目次はこんなかんじ。
第1章 人工知能とは何か――専門家と世間の認識のズレ
第2章 「推論」と「探索」の時代――第1次AIブーム
第3章 「知識」を入れると賢くなる――第2次AIブーム
第4章 「機械学習」の静かな広がり――第3次AIブーム(1)
第5章 静寂を破る「ディープラーニング」――第3次AIブーム(2)
第6章 人工知能は人間を超えるか――ディープラーニングの先にあるもの
終章 変わりゆく世界――産業・社会への影響と戦略
1章で、人工知能(AI)の概要にふれます。
2章〜4章で、これまでのAIブームにふりかえりつつ、研究の歴史についてみていきます。
5章〜6章で、いまのAIのスゴさと世の中にたいする影響をみていきます。
松尾豊『人工知能は人間を超えるか』で気になったトコ
引用をのせつつ、気づいた点をのべていきます。
人工知能の定義
私の定義では、人工知能は「人工的につくられた人間のような知能」であり、人間のように知的であるとは「気づくことのできる」コンピュータ、つまり、データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータという意味である。(0461)
まず人工知能の定義は、明確に決まっていません。
ある程度のコンセンサスはありますが、研究者によっても微妙にバラバラだったりします。
専門家でもこんなかんじなので、新聞や経済誌などでつかわれる「AI」は、さらにまちまちです。
読むときは注意しましょう。
著者の定義は、「データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータ」としています。
すこし長いですが、シックリくる定義ですね。
人工知能とロボットのちがい
単純に言えば、ロボットの脳に当たるのが人工知能である。ロボット研究では、脳以外の部分を研究している研究者もたくさんいるので、ロボット研究者の全体ではなく、その一部が人工知能研究者である。そして、人工知能の研究対象は、ロボットの脳だけではない。(0489)
こちらもよく混在されてつかわれてますね。
本書では、AI とロボットを、ちゃんと区別しています。
いまの人工知能のレベル
AIの性能は、1〜4までランク化されています。
いまはレベル3&4の研究がさかんです。
内容は以下のとおり。
「荷物の積みおろし」の例に説明します。
レベル3のAI(機械学習)は、最初から厳格なルール、あるいは知識を与えられているわけではない。いくつかのサンプルが与えられて、「これは大」「これは中」「これは小」というルールを学んだら、次からは自分で「これは大だな」「これは中だな」「これはどこにも当てはまらない」と判別して、自分で仕分けできるようになる。 一方、レベル4のAI(特徴表現学習)は特徴量を自分で発見するので、たとえばゴルフバッグをいくつか束ねて、「このタイプの荷物は、サイズ的には「大」かもしれないが、ほかとは明らかに異なる形状なので、別扱いしたほうがいい」と気づき、そういった「ゴルフバッグなどの荷物について」のルールを自分でつくるかもしれない。時間がたつほど、一番効率的な仕分けのしかたを学んでいくのがレベル4のAIだ。(0561)
いま注目されているのは、レベル4の段階で、「荷物=ゴルフバック」だと、キカイが自分ひとりで学習し、積みおろしをおこないます。
「こちらが教えずとも、自分ひとりで」というのがポイントですね。
人工知能、3つのブーム
第1次AIブームは推論・探索の時代、第2次AIブームは知識の時代、 第3次AIブームは機械学習と特徴表現学習の時代であるが、もっと厳密に言うと、この3つはお互いに重なり合っている。たとえば、第2次ブームの主役である知識表現も、第3次ブームの主役である機械学習も、本質的な技術の提案は、第1次ブームのときにすでに起こっているし、逆に、第1次ブームで主役だった推論や探索も、第2次ブームで主役だった知識表現も、いまでも重要な研究として脈々と継続されている。いずれにしても、ここでは大雑把に3回のブームがあるということをつかんでもらいたい。(0638)
これまで3つのブームがあり、それぞれの研究が折り重なって、いまの研究が展開されています。
ディープラーニング
いまのレベル4の人工知能を支える技術がディープラーニングです。これがいまの人工知能ブームの火付け役です。
ディープラーニングは、データをもとに、コンピュータが自ら特徴量をつくり出す。人間が特徴量を設計するのではなく、コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し、それをもとに 画像を分類できるようになる。ディープラーニングによって、これまで人間が介在しなければならなかった領域に、ついに人工知能が一歩踏み込んだのだ。(1441)
どんな技術かといえば、こんなかんじ
相関のあるものをひとまとまりにすることで特徴量を取り出し、さらにそれを用いて高次の特徴量を取り出す。そうした高次の特徴量を使って表される概念を取り出す。人間がぼーっと景色を見ているときにも、実はこんな壮大な処理が脳の中で行われているのである。(1591)
つまり、膨大な情報量から、ひとつの特徴を明確にして、概念として認識します。
この一連のプロセスは、人間の赤ちゃんがおこなうことで、だからこそ、人工「知能」だと言われているわけです。
生後すぐの赤ちゃんは、目や耳から入ってくる情報の洪水の中から、何と何が相関し、何が独立な成分かという「演算」をすごいスピードで行っているはずである。情報の洪水の中から、予測しては答え合わせを繰り返すことでさまざまな特徴量を発見し、やがて「お母さん」という概念を発見し、まわりにある「もの」を見つけ、それらの関係を学ぶ。そうして少しずつ世界を学習していく。(1593)
コンピューターが「特徴量」をみつける方法
ちなみに、特徴量を浮びあがらせる方法は、コンピューターに膨大な情報を入力するだけでありません。
あえて「どうでもいい情報=ノイズ」を混ぜるやり方もあります。こうすることで、コンピューター自身の学習能力を高めるわけです。
実は、こうした特徴量や概念を取り出すということは、非常に長時間の「精錬」の過程を必要とする。何度も熱してはたたき上げ、強くするようなプロセスが必要である。それが、得られる特徴量や概念の頑健性(ロバスト性とも呼ぶ)につながる。そのためにどういうことをやるかというと、一見すると逆説的だが、入力信号に「ノイズ」を加えるのだ。ノイズを加えても加えても出てくる「概念」は、ちょっとやそっとのことではぐらつかない。(1650)
定義 ≒ 概念が〝ぐらつかない〟ように、あえて「ノイズ」を入力して、強化するわけですね。
じつはこの方法を思いつかなかった、思いついても実践できなかったからこそ、AI技術がイマイチ進展しませんでした。
それが人工知能の分野で長年実現できなかったのは、コンピュータが概念を獲得しないまま、記号を単なる記号表記としてのみ扱っていたからだ。記号を「概念と記号表記がセットにしたもの」として扱ってこなかった、あるいは扱うことができなかったからである。 そのために、現実世界の中から「何を特徴表現とするか」は、すべて人間が決めてきた。決めるしかなかった。コンピュータの能力がいまほど高くなく、記号をそれのもとになる低次の情報とあわせて扱うことなどできなかったからだ。そこがすべての問題の根源になっていた。(1707)
ディープラーニングの影響
ディープラーニングの登場は、少なくとも画像や音声という分野において、「データをもとに何を特徴表現すべきか」をコンピュータが自動的に獲得することができるという可能性を示している。簡単な特徴量をコンピュータが自ら見つけ出し、それをもとに高次の特徴量を見つけ出す。その特徴量を使って表される概念を獲得し、その概念を使って知識を記述するという、人工知能の最大の難関に、ひとつの道が示されたのだ。(1712)
ディープラーニングによって、コンピューターが特徴量を発見し、概念化できるようになりました。
人工知能の進化と影響力
人工知能で引き起こされる変化は、「知能」という、環境から学習し、予測し、そして変化に追従するような仕組みが、これまた人間やその組織と切り離されるということである。いままでは組織の階層を上がって組織としての判断を下していた。個人が生活の中で判断することも、自分の身体はひとつであるから限界があった。それが分散され、必要なところに必要な程度に実行されるようになるのである。(2147)
この見方はおもしろいですよね。
「知能」が「環境から学習し、予測し、そして変化に追従するような仕組み」だとすれば、ソレが人間のカラダと脳から解放されると指摘します。
そのため、よくいわれようなAIが人間を支配する、というよりも、人間の脳にしかなかった「知能」が、外部へ飛びだし、社会に分散していくといいます。
なるほど、この視点は納得ですよね。
人工知能が人間を征服するといった滑稽な話ではなく、社会システムの中で人間に付随して組み込まれていた学習や判断を、世界中の必要なところに分散して設置できることで、よりよい社会システムをつくることができる。それこそが、人工知能が持つ今後の大きな発展の可能性ではないだろうか。(2153)
松尾豊『人工知能は人間を超えるか』のまとめ
AI の歴史をコンパクトに学べる良書です。
人工知能の概要を知るのはイチオシです。
ほかにも、それぞれの産業と職業にたいして AI がどんなふうに変えていくかも述べていますが、将来予想については、かるく触れている程度です。
控えめな見解も、好感がもてます。
ここ数年で盛りあがっているAIブーム──ソレを冷静に判断したい人には、おすすめの1冊です。
よければチェックしてみてください。
ではまた。